スプーキーじいさんって何考えてるの!?

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グラミー賞のグラミーって何?

もうすぐ今年のグラミー賞です。
ノミネートされた曲の中でも印象的だったのは、ビヨンセの"BREAK MY SOUL"ですね。
「ガタガタガタガタガタガタガタガタ」って一体……(笑)

 

さて、グラミー賞を知らない人はあまりいないと思います。
権威のある音楽賞として有名ですけど、じゃあ「グラミー」って何だかご存知ですか?
今回はそこを深掘りしてみます。

 

 

 

JVC(旧・日本ビクター株式会社、現在はJVC・ケンウッド・ホールディングス株式会社)の製品によく付いている犬のマークといえば、多くの方は「ああ、あれね」とイメージできると思います。

その犬の名前は……「グラミー」ではありません!
ニッパー(Nipper)」と言います、実在した犬なのです。


ニッパーは1884年生まれのフォックステリアの犬です。
ジャックラッセルテリアという説も、テリアミックスだった可能性あり)
イギリス西部のブリストルという港町の、風景画家の家で生まれました。
その画家の名は、マーク・ヘンリー・バロウド。
そしてニッパーの名前の由来は、すぐお客様の足に噛み付くから。
(工具のニッパーと同じ名前)
1887年にマークが死去してしまい、ニッパーは弟のフランシスの家に引き取られます。


マークは生前、フォノグラフ(Phonograph)という初期の蓄音機を持っていて、自分の声を吹き込んだりしていました。
当時蓄音機といえば、エジソン・ベル社のフォノグラフと、ベルリーナ・グラモフォン社のグラモフォン(gramophone)の二種類がありました。
フォノグラフは蝋管(ろうかん、wax cylinder)という、ワックスを固めた円筒型のものを回転させて、針で傷を付けることで録音し、その傷をなぞることで再生する蓄音機でした。

フォノグラフの一例

 

蝋管の一例

フランシスはある日、兄が遺した蝋管を再生してみました。
すると、ニッパーがラッパ型のスピーカーを覗き込み、その声をじっと聴いたのだそうです。
ご主人様の声が聞こえるとニッパーは思ったのでしょうね、何とも可愛らしい話じゃないですか。

 

 

 

そしてニッパーは、1895年に亡くなります。
その三年後、フランシスはこのシーンを思い出し絵にしました。
そして絵のタイトルを「His Master’s Voice」としました。

His Master’s Voice(初期バージョン)

リアルですねぇ。
貧しかったフランシスはこの絵は使えると思い、まず商標登録します。
その名を、
"Dog Looking At and Listening to a Phonograph"
フォノグラフを見て聴いている犬)
としました。
そして1899年に、この絵をエジソン・ベル社に持ち込みます。
エジソン・ベル社の宣伝に使わせる目論見でした。
ところがエジソン・ベル社はこれを不採用とします。
曰く、
「犬がフォノグラフなんて聞くわけないだろ」
とのこと。
洒落が通じない会社です、やだねぇ。

 

でもヘコタレなかったフランシスは、すぐにエジソン・ベル社のライバルのベルリーナ・グラモフォン社へ絵を持ち込みます。
グラモフォンは今のレコードプレイヤーに近いもので、円盤型に固めた樹脂に掘られた溝を針でなぞることで再生する機械で、録音はできません。

グラモフォンの一例

ベルリーナ・グラモフォン社はこの絵を気に入り、絵の中のフォノグラフをグラモフォンに描き変えたら買い取ると言いました。
フランシスはすぐに蓄音機を描き変え、めでたく絵は買い取られ、1900年にベルリーナ・グラモフォン社の商標として登録されました。

His Master’s Voice(描き替え後)

あれれ、元々ニッパーは飼い主が録音した声を聴いていたのに、グラモフォンに描き替えてしまうと、ただの音楽好きな犬になってしまうのでは……?(笑)

 

 

 

エミール・ベルリナーによって開発されたグラモフォンは、トーマス・エジソンンの開発したフォノグラフを参考にしながら改良を施したもので、音質や製造コストや収納のしやすさでグラモフォンが勝ち残ります。
ベルリナーはグラモフォンの開発をスタートさせた頃はベル研究所に所属していましたが、グラモフォンが完成する前年に独立しグラモフォンの製造・販売のための会社・ベルリーナ・グラモフォンを立ち上げます(1895年)。

 

そしてベルリーナ・グラモフォンを母体にアメリカでビクタートーキングマシンが出来て、後にRCAとなり、イギリスではEMI、ドイツではドイツ・グラモフォン、日本では日本ビクターが出来たのです。
(「ビクター」という固有名詞の由来は諸説あります)
蓄音機を売るためにはソフトが必要で、音楽ソフトを作って売る会社が続々と誕生したわけです。
この後、音楽事業は国際的に複雑に絡み合いながら発展していきました。
(大変分かりづらい歴史なので全部はとても書けません)
日本ビクターがニッパーのマークを使っていたのは、ベルリーナ・グラモフォンの系列だからですね。

 

1921年、ベルリーナ・グラモフォン社が自社製品を販売するためにロンドンに開店したお店がHMVです。
我々がよく知るCDショップのご先祖様ですけど、その店名の由来は……
そうです! 「His Master’s Voice」です。

 

蛇足ですが、HMVは2013年に経営破綻しています。
(日本のHMVは日本法人を設立し、それがローソンに買収されていて、影響は受けていない)
Spotifyなどのサブスクが登場する前、特にヨーロッパでは市民の音楽離れが進んでしまい、またCDという商品は資源の無駄遣いとして売れなくなっていたのです。
色々なモノがネットを介してやり取りされるのが当たり前になってくると、特にデジタルデータ化できる商品の場合は、店舗を持っていても無駄になってしまうのでしょう。

 

 

 

さてさて、ここでやっとグラミー賞の登場となります。
音楽界の最高の栄誉であるグラミー賞の「グラミー」って、実はグラモフォンの愛称なのです。
蓄音機から始まった音楽産業が、こんなに大きくなったってことですね。
グラミー賞は元々は「グラモフォン・アウォード(Gramophone Award)」と言われていたそうです。
グラミー賞のマークは蓄音機の図案化)

 

ちなみに、グラミー賞を創設するときに(1959年)、蓄音機を発明したエジソンに因んだ「エディー賞」という案もあったそうです。

 

 

 

ニッパーの絵を使える権利は、紆余曲折があってそれぞれの国のそれぞれの会社が持ちました。
現在は、
・日本―――JVCケンウッド、JVCケンウッド・ビクターエンタテインメント、Verbatim Japan(← 磁気テープなどの製造メーカー・バーベイタムの末裔)
・北米―――RCA
が権利を所持しています。


RCAは独自にチッパーという子犬のキャラを作り(1990年)、アメリカのRCAの広告ではニッパーとチッパーが並んでいる画像がよく使われています。

 

ビクターエンタテインメントは2月8日を「ニッパーの日」としています。

 

アニメファンにはお馴染みのフライングドッグという会社(ビクターエンタテインメント系列)のロゴマーク、犬が勢いよく飛び跳ねている絵ですが、これもニッパーなのだそうです。

 

ニッパーのオフィシャルストアも発見したので、リンクを貼っておきます。
https://victor-store.jp/nipper/

 

 

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。