スプーキーじいさんって何考えてるの!?

貧乏・暇なし・不健康。一人暮らしのじいさんのブログです。このブログに広告とか金儲けは入っていません。スターは一個だけ付ける主義です。

映画と私 9

前回に続き、『王立宇宙軍』の話です。
この映画は前回描いたとおり、SFマニアが集まって知恵を出し合って、オリジナルな世界を構築しています。
ちょっと見ただけでは分からないようなトリビアの宝庫なのです。
その辺を解説しましょう。
ネタバレだらけなのでご注意を

 

 

冒頭の、少年シロツグが水軍の空母とジェット戦闘機を見に行くシーンです。
ジェット戦闘機がカタパルト発艦するこのカットで、水面に水しぶきが描かれていることに気付きましたか?
これ実は、現実のカタパルトを表現しているのです。
カタパルトは第二次大戦から使われるようになりましたが、米海軍のエンタープライズの前期型までは、カタパルトと飛行機を接続するパーツを、発艦するたびに海に捨てていたのですよ。
この映画のオネアミス王国は、地球で言えば1960年くらいのアメリカと同じ文明レベルと考えていいでしょう。
わざわざ水しぶきを描いてしまう、そんな人たちがこの映画を作っているのです。

 

 

オープニングとエンディングで見られる、この不思議なタッチの絵を描いているのは大西信之です。
当時はモデルグラフィック誌やぴあ誌でよく見たものです。

 

 

王立宇宙軍』の音楽は坂本龍一が担当していることになってます。
でも実際は全体を統括する形での参加で、先に四曲を作って仲間の音楽家に渡しています。
その四曲は『オネアミスの翼 イメージスケッチ』というアルバムになっていて、作品内で使われた曲とは違っています。

 

 

こういう架空のカードゲームも、きちんとルールが作られたそうです。
そういえば有名な『Star Trek』の最初のテレビ版に登場する「3Dチェス」もルールが作られているそうですよ。
マニアに流れる血は同じということですね。

 

 

この星の人々が宇宙に関心がなく宇宙軍を馬鹿にするのは、「この星に月がないから」という設定です。
我々は月を見ているからこそ、宇宙に興味を持つということですね。
後々将軍が王国貴族と会ったときの王国貴族のセリフにもそういう感情がにじんでいます。

 

 

「人の泡使うと貧乏するよ!」
後方にいるチャリチャンミは皮肉屋で斜に構えて生きていて、ことわざが大好き。
こういうことわざもスタッフが考えたものです。

 

ヒロインのリイクニ。
女の子の前でカッコつけたくなるのは地球の男の子も同じです。
CVの弥生みつきは『逆襲のシャア』にも出てましたが、既に声優を辞めています。

 

 

超カッコいい空軍の第3スチラドゥ(練習機タイプ)。
この中折れの二重反転プロペラは回転させるのが手描きだと難しかったため、PCで3D作画をして、それをアタリにして描いているそうです。
当時だとまだ3DCGをそのまま使えるまでにはなっていませんでした。

 

 

宮崎駿はこの映画を見て、ロケットを宇宙軍の若者だけで飛ばしたような演出にダメ出しをしました。
宇宙旅行協会やその他にも大勢の人たちが関わっていたはずで、そういう人たちを軽視しているように見えたのでしょう。
私もこの映画を見たときに、有人宇宙ロケットがこんなに簡単に作れて飛ばせるのはおかしいと思ったものです。

 

 

これはロケットエンジンの図面です。
実際には大きな紙に描かれたものを撮影しています。
劇場公開されたとき、キネカ大森の別フロアに『王立宇宙軍』の特設ブースが設置され、この図面も展示されてました。

 

 

ここは気がついた方も多いでしょう。
シロツグのスタンドの透過光が、製図板の手前に来てしまっています。
次のカットでは向こう側になっていて、後のソフト化のときにも直していなかったみたいです。

 

 

ここでマティが飲んでいるのは、実は牛乳なのです。
このシーンよりずっと前に、劇場公開時にはカットされたシーンがあって、LDボックス版で追加されたのですけど。
そのシーンでは新しいもの好きなネッカラウトが「牛乳がキテる」と言うのをマティが気持ち悪がるのです。
マティ、いつから牛乳を飲むようになったの……?(笑)

 

この世界の新聞紙が一枚の繋がった紙になっているのは、コンピュータのプリンタ用紙から得たアイディアです。
この作品のオリジナルデザインって、懸命に現実世界の逆を行ってるように見えてしまいますね。

 

 

王国貴族の言葉です。
宇宙旅行?我々がしているのは軍隊の話だ。」
上に書いたとおり、この星の人たちは宇宙に関心がないのです。
普通に考えたら、宇宙を制することで世界を制するというのはすぐに分かりそうなものですけどね。

 

 

オネアミス王国の硬貨が棒状なのは、麻雀の点棒から得た発想です。
そういえば我々の世界の硬貨って、どこでもみんな円盤状ですよね。
棒状の硬貨ってどこかにあるのかな?

 

 

オネアミス王国よりも少し進んだ共和国では、「宇宙戦艦」の奪取を目論んでいます。
ロケットの情報があまり得られてないのでしょうね、武器なんて付いてないのに。
ただその可能性を認識している辺りはさすがです。

 

 

シロツグがリイクニを襲うシーンです。
ガイナックスの男性スタッフが寄って集って演出したそうで、それを見た女性スタッフは嫌悪感を抱いたとか。
私は男性ですけど、このシーンを見るのは嫌ですね。

 

 

共和国の暗殺者がシロツグに返り討ちに遭うシーンです。
冴えた演出が見られる名シーンだと思います。
坂本龍一はこの映画のことを「暴力が出てこないから子供にも見せられる」とどこかで書いていましたけど、ちゃんと見ていなかったのでしょう。
(この上のシーンもあるし)
初めてアニメの仕事をすることになって最初はノリノリだった坂本は、ギャラ問題で手を引くことになって他の音楽家に任せたようです。
上の文章にしても、人に書かせたのかもしれませんね。

 

 

オネアミス王立空軍の第3スチラドゥ(単座型)。
実は非常に優秀な戦闘機で、レシプロ機ながら共和国の初期のジェット戦闘機と互角に渡り合えたそうです。
この辺りは朝鮮戦争を思い起こさせますね。

 

 

ロケットの打ち上げ時刻を繰り上げて共和国(と味方の一部)を欺こうとした将軍ですが、その情報も漏れていたのかもしれません。
共和国のリマダ駐屯軍が攻め込んできたことを知らされて、打ち上げを諦めます。
宮崎駿は将軍がアッサリと打ち上げを諦めたことに強い違和感があったそう。
人によって感覚が違うのでしょうね、私は将軍がロケット打ち上げよりここにいるスタッフの命を優先したように感じましたが。

 

 

共和国空軍のジェット戦闘機です。
主翼の上に増槽タンクを設置する機体は珍しいですね。
現実だと、イギリスのEEライトニングくらいしか知りません。

 

 

クライマックスの戦闘シーンは庵野秀明が担当したそうで、物凄くレベルの高い作画が見られます。
CGが普通に使われる今、手描きでここまで描くアニメはほとんどないかもしれません。

 

 

これは間違いじゃないかな。
装甲車から歩兵が飛び出してくるカットですけど、開いたドアから出てくるのが正解では?
しらんけど。

 

 

これが有名な、共和国の装甲車に弾が当たって爆発するカットです。
衝撃波、爆炎爆風、破片という順番で広がっていく作画の拘りの凄さですね。

 

 

このカットも実は間違いがあって、共和国の歩兵が息を吸うタイミングで吐く息が白くなっているのです。
些細なことですけどね。

 

 

今や年寄りしか知らない、ニキシー管です。
不思議と作品の世界観に合ってますね。

 

 

こういうロケットのことを「クラスターロケット」と言います。
大きなロケット一個を開発するよりも、既存の小さいロケットを束にしたほうが安上がりで確実なのだそうで、ソ連が得意とした方式です。

 

 

これがアニメファンには有名な、ロケットの表面に張り付いた氷が発射時の振動で剥がれて落ちてくるカット(複数あり、CGではありません!)です。
アポロ計画のフィルムで見たことがあります。
庵野秀明は一つ一つの氷片に番号を付けて作画したそうですよ。
それぞれの氷片がリアルに降ってくる作画は、アニメ映画『GHOST IN THE SHELL』のオープニングの「少佐の皮膚が剥がれて舞うシーン」と同じで、アニメーターなら誰もやりたくないし、出来ないでしょうね。

 

 

このカットもそうです。
常軌を逸してますね。
それだけに見るほうは快感すら感じます。

 

 

この映画を見た人の一部に、このカットの後で宇宙機は爆発してシロツグは死亡、この後のシーンはシロツグが見た走馬灯だと思った人がいたそうです。
なるほどねー、そう捉えましたか。

 

 

「そしてシロツグは、灰になってリイクニの元へと戻ったのでした」
めでたしめでたし……って(笑)。

 

 

ちゃんと飛んでるって!!

 

 

最後に、シロツグたちの星からカメラが引いていって、スッとパンして星空が写ります。
これは我々の地球の方向を向いているのではないですか?
「君たちの星はどうだい?」って言われているように感じました。

 

 

 

今回は本当に長くなってしまい、申し訳ありません。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。