残業の想い出 - スプーキーじいさんって何考えてるの！？

私がソフト開発をやっていた若い頃。
この業界は残業が当たり前でした。
（銀行とか証券会社向けのシステムを作ってた）
休日出勤もよくしたし、そういう時間外を想定した線表（スケジュール）を作られてしまうのですからしょうがない。
独身の私にとっては、時間外手当が100%出ていたからそんなに嫌ではなかったですけどね。
超忙しくて現場に泊まり込むようなことも時々あって、そうなると手取りが凄いことになったりして。
でもヒマなときは一日中資料読みで、定時でとっとと帰ったりもしてました。
まぁ何でも慣れてしまうものですよ。

ほとんどの現場は17:30が定時で、18:00から時間外が始まります。
この30分間で夕食を済ませるのです。
終わるのは21時とか22時が普通でしたから、お昼ご飯だけでは乗り切れません。
みんな外食したり、自席でカップ麺を食べたりしてました。

ある現場でのこと。
そこはかなり大きなビルで、一階に自販機コーナーがありました。
ドリンクの自販機の他に、軽食の自販機もありまして。
パンだったりカロリーメイトだったりお菓子だったり、あとおむすびセットもあって。
おむすびセットというのは二つのおむすびと唐揚げが一個とタクアンが二切れという、簡易なお弁当的な商品です。
私はこれが好きでね、安いし美味しいし腹持ちも良くてよく買ってました。
価格は￥250でした。

ある日の夕方、またおむすびセットを買おうと自販機コーナーに行って、お金を入れてボタンを押すと、何だかお釣りがジャラジャラ出てきてしまって。

「あれ、ピッタリの金額を入れたはずだけど？」

そう思ってお釣りを数えたら、何と￥240もあって、おむすびセットも出てました。
つまり、たった￥10でおむすびセットが買えたわけです。
ビックリ仰天ですよ。

それで自席に戻って、レンチンしたおむすびセットを食べました。
￥10で買えたことは同僚には言いませんでした。
別に私が悪いことをしたわけではないけど、どこかに罪悪感があったのでしょう。
こんなことで叱られては堪りません。
おそらく業者の人が設定を間違えたのでしょうけどね。

次の日から私は、続けておむすびセットを買って食べました。
価格は変わらず￥10でした。
たかが￥240の儲けですけど、続けていたらそこそこの金額になってきます。
まぁそれで車を買えるとかじゃないけど（笑）、ホクホクの気分でした。

ある日、同じグループの先輩が外食に誘ってきました。
たまには一緒に食事しようってことです。
でも私にはおむすびセットがあります（←？）。
先輩の申し出を断ると、意外と食い下がってきて。

「なんだよー、最近付き合い悪くないか？」

（あー！面倒くさい！）
（人が行かないって言ったら行かないの！）
（私は￥10で夕食を済ませるの！）
（外で食事したらその数十倍のお金を取られちゃうでしょ！）
　↑ 心の声です

ここで私はちょっと頭にきて、おむすびセットの秘密を話してしまったのです……
バカだね。

それを聞いた先輩は半信半疑でしたが、すぐに一階に行っておむすびセットを買ってきてしまったのです。

「おいスプーキー！本当に￥10で買えたぞ！凄いなぁ！」

あーあ、バレちゃった。
先輩がそうやって大声で言うものだから、近くにいた同僚がみんな反応して、この話はあっという間に広まってしまいました、とさ。

それ以後、一階の自販機コーナーのおむすびセットはいつも売り切れ。
元々そんなに数はなかったところに、同じフロアの人間が殺到したのですから無理はありません。
中には二個三個買うヤツまで出る始末。
それで私はまったく買えなくなってしまいました。
ちぇっ。

そして後日、先輩が「おむすびセット、￥250に直されてたよ」と教えてくれました。
そりゃそうだ、いくらなんでも業者の人間だって気付くでしょ。
おむすびセットが売れるたびに損してるんだから。
おむすびセット￥10セールはこれにて終了。
短い春でした……

今となってはいい想い出です。
みんなで仕事頑張って、残業して、一緒に食事して、飲みに行って。
休日に私服で出勤してきて、顔を合わせてヤレヤレなんて。
忙しくて大変だったけど、なんか懐かしい。
こういう毎日を送っていると、同僚が家族みたいに思えてきます。
あの一体感。
そしてオフィスで食べる安い食事の味ね。
私にとっては第二の青春って感じでした。

こないだ思いつきで、こんなものを食べてみました。