スプーキーじいさんって何考えてるの!?

貧乏・暇なし・不健康。一人暮らしのじいさんのブログです。このブログに広告とか金儲けは入っていません。スターは一個だけ付ける主義です。

上陸作戦と帰ってきた鳩

2012年11月、イギリスのサリー州(ロンドンの南側)にあるブレッチングリーという村(ロンドン中心部まで車で約一時間)に住むデビット・マーチンさんが自宅の修繕をしていたとき、煙突の中で鳩の死骸を見つけました。
かなり古くて白骨化したその脚には、筒状の小さい容器が付けられていたのです。
この鳩は一体いつどこからやってきて、なぜここで死んだのか。
この筒は何か。
今回はそんなお話です。

 

 


 

 

「ノルマンディー上陸作戦」といえば、戦史に興味がなくても聞いたことくらいはあるのではないでしょうか。
第二次世界大戦のときの、ヨーロッパの西部戦線での連合軍の作戦名です。
正確には「ネプチューン作戦」というのですがね。
作戦名に秘密の上陸地点の地名を入れちゃーいけませんぜ(笑)。
これは連合軍側で作戦に参加した兵士が初日だけで約15万人という、空前絶後の一大上陸作戦だったのです。

 

第二次世界大戦でドイツ軍はヨーロッパ大陸を東西へ攻め込んで支配地域を広げていき、ドーバー海峡越しにイギリスを攻めたものの上陸は叶わず。
ドイツ空軍が連日イギリス本土を爆撃しに行ったがイギリス人はくじけなかった
この戦いをBoB(Battle of Britain、1940年~1941年)という
東部戦線ではソ連軍がドイツ軍と激闘を繰り広げていて、ソ連はイギリスやアメリカに西部戦線での反攻を繰り返し依頼していました。
アメリカ軍とイギリス軍は戦力をイギリス東部に集めて、ヨーロッパ大陸へ上陸しようと準備しました。
ドイツ軍は東部戦線に戦力を集中していましたが、大西洋からの上陸を警戒しなかったわけではなく、連合軍が上陸しそうな場所の守りを強化したのです(大西洋の壁)。
上陸戦では海から上陸するほうが圧倒的に不利なので、連合軍はいつどこに上陸するかを慎重に検討しました。
イタリアは既に降伏していたが(1943年9月8日)イタリア半島の連合軍の進撃はドイツ軍の防戦のため遅れていた
そして1944年6月6日(火)、ついに上陸作戦が始まったのです。

 

 

 

ノルマンディー上陸作戦を有名にした要因の一つは、映画『史上最大の作戦』(1962年)でしょうね。
この邦題を故・水野晴郎が考案したのは有名な話です。
原題は「The Longest Day(一番長い日)」で、これはコーネリアス・ライアンの原作(1959年)と同じタイトルです。
ライアンは当時のことを知る千人以上の軍人・民間人にインタビューをして、その証言を集めて一冊の本にしています。
ですから軍事関係の資料だけで書かれた戦史本と違って、興味深いエピソードが多数詰め込まれているのです。
そのエッセンスはこの映画にも十分に活かされています。

 

この本の中に登場するエピソードの一つをご紹介しましょう。
新訳版が出ていて今確認中ですが、ここに掲載したのは古い版のものです

 

 ジュノ海岸の特派員たちは最初何の通信手段も持たず、それを初めて得たのは、ユナイテッド・プレスのロナルド・クラークが伝書鳩の入ったバスケットを二つ持ってきたときだった。特派員たちはさっそく短い記事を書いてプラスチックのカプセルに入れ、それを鳩の脚にとりつけて鳥たちを放った。ところが、あまりにも荷が重すぎて、大部分の鳩は飛び上がったものの、すぐに地上に落ちてしまった。それでも何羽かは、頭上を二、三度旋回すると、飛び去っていった―――と思ったら、ドイツ軍陣地めざしてだった。

 「裏切り者!」ロイターのチャールズ・リンチは海岸に立って、去っていく鳩に向かってこぶしを振りまわしながら怒鳴った。「裏切り者のろくでなし!」ウィリクームの話では、結局四羽の鳩が「忠誠を尽くした」。実際に、数時間後にロンドンの情報省に到着したのだ。

 

史上最大の作戦コーネリアス・ライアン、ハヤカワ文庫版(旧)のP311より

 

軍は情報漏れを防ぐために、同行した特派員たちに無線を持たせませんでした。
彼らは無線の代わりに、ここに書かれているとおり伝書鳩を使ったのです。
上陸作戦が成功したことを早くイギリスにいる同僚に知らせたかったのでしょう。
ジュノ海岸では激戦で知られるオマハ海岸と同等の損害を出したがドイツ軍の制圧は早かった
ちなみに軍隊で使われた伝書鳩は「軍鳩(ぐんきゅう、War pigeon)」と言い、この作戦でも使われました。

 

軍鳩のカゴを抱えた兵士

 

この筒の中に暗号文書を入れる

 

映画の中で、私が引用した部分もちゃんと出てきます。
映画ではソード海岸になってますが。

 

伝書鳩を飛ばすシーン、少しアレンジはされているようですね

 

怒ってる、怒ってる!

 

上陸地点の位置関係

 

 

 

冒頭に書いた鳩の亡骸は、脚に付いた筒に入っていた文書から、このノルマンディー上陸作戦のときに飛ばされた軍鳩だということが判明しました。
もっとも年月が経ちすぎていて、詳しい内容は分からなかったようですけど。

 

脚に取り付けられていた筒

 

筒に入っていた暗号文

 

悪天候の大西洋を渡りきり、マーチンさん家の煙突に止まったところで力尽きたのでしょう。
それが68年も経ってから見つかったのです。
よく頑張ったなぁ。
立派な「ろくでなし」の御冥福を祈ります。

 

 

 

ライアンの本には多数の個人的エピソードが載っていて、非常に読み応えがあります。
欧米の人って、小粋なジョークが好きですからね。
例えばドイツ軍が占拠しているカジノの建物を攻撃するよう命じられた自由フランス軍の兵士が、

「そいつはありがたい。私はあそこでずいぶん金をすりましたからね」

なんて発言したりして、ぷくくくっ。
いやいや、戦争で笑ってはいけないのですが。
欧米人の軽口が大好きな私にとっては堪らない本ですよ。

 

ライアンの戦史本はこの他には、

・遥かなる橋(マーケット・ガーデン作戦を扱った本、これも映画化されている

ヒトラー最後の戦闘

の四冊(どちらも上下巻)がどちらもハヤカワ文庫から出ています。
秋の夜長にいかがでしょうか。

 

 

 

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。