『機動警察パトレイバー』という作品があります。
元々はマンガ家のゆうきまさみがアマチュア時代から温めてきた企画で、大型ロボットにパトカーのエンブレムを付けて白黒に塗って、それに警察官が搭乗して活躍する物語として考えていました。
1980年代の前半にゆうきは仲間内でこの企画で遊んでいましたが、プロのスタッフたちとの交流の中でこの企画が注目されて、押井守を監督にOVA(オリジナルビデオアニメ、ビデオで売るためのアニメ作品のこと)全6巻で発売されることになります。
(バブル景気も影響したでしょう)
マンガ家としてプロデビューしていたゆうきは、OVAの発売に合わせて週刊少年サンデーで『パトレイバー』の連載を開始、結果としてOVAより少し早いスタートとなりました。
アニメとマンガの内容は似ていますが、実際は細かい部分でかなり違うものになっています。
サンデーで連載が始まったのが1988年の春。
当時は珍しいマンガとアニメのメディアミックスということで、ファンの間では話題になってました。

マンガファンながら雑誌は滅多に買わない私も、サンデーは買いましたね。
当時は「今、乗っていかないと!」という気持ちがありました。
『パトレイバー』は従来のマンガらしいマンガではなくて、アニメのテイストが入ったマンガでした。

私が面白いと思ったポイントは二点。
一つは、近未来の東京を舞台とした作品だったことです。
今はご当地アニメなんていって、実在する街を舞台として、現地で撮影した大量の画像や映像を使った絵作りをする作品が多数あります。
でも昔はそうじゃなくて、みんな架空の街を舞台にしていたのですよ。
タツノコプロの作品の街なんて、ちょっとヨーロッパ風で不思議な雰囲気がありました。
『パトレイバー』で東京の地名が出てきたときには、自分たちがいるこの街でロボットが暴れたりしている感覚が新しくて面白かったのです。
もっとも、作り手にリアルな街に寄せようという感覚はあまりなくて、後々の映画版『パトレイバー2』でやっと東京っぽくなってきた感じですがね。
コミック第一巻で浅草周辺の地図が出ますけど、手書きで適当なものです。
映画版『パトレイバー』の前半では長屋が並ぶ下町でレイバーが暴走しますが、カーナビの地図に写っているのは全然下町じゃない北新宿だし、特車二課の館内放送で「下谷」って言ってますけど下谷は長屋が並んでいるような街じゃないし、川もないです。


(OVA第二巻で、当時まだ建っていない東京都庁舎が登場したのは笑いましたが)
これはつまり、作り手は設定として「近未来の東京を舞台にした」ということだけで十分で、絵を実際の街に似せる必要性を感じていなかったということです。
また、実際の街に似せて作る手間も大変だっていうこともあるでしょう。
私は妙にリアリティに拘るタイプで、もっと現実に寄せてほしいと思っていました。
それで実際に歩いて作品のスケール感を楽しみたかったです。
※ちなみに特車二課の所在地は、現実にある東京湾の城南島という埋立地の東側に設定された架空の埋立地です。
(作品によっては台場のことも)
特車二課の上を旅客機が飛ぶシーンが多いのも場所柄ですね。
あんな場所じゃあ出前も嫌がられるでしょうなぁ。
もう一つのポイントは、主人公が警察官だということ。
架空の独立した組織にいるわけではなく、遠い未来の話でもなく、現代の警視庁の中の一員として主人公たちを描いたことが新鮮だったのです。
これに似ているのが士郎正宗の『ドミニオン』というマンガで、アニメ化もされています。

どちらもショートカットの若い女性がメカに乗る
(『ドミニオン』は未来の世界の架空の街の物語ですがね)
これは街だけではなく、実際にある組織で遊ぶという感覚です。
両作共に、主人公は「組織の中の一員」ということが強く描かれています。
刑事ドラマ『太陽にほえろ!』みたいに現場のメンバーだけで物語が作られるのとは違っていて、これが後のドラマ『踊る大捜査線』に繋がるのです。
『マジンガーZ』って、富士山の麓にある光子力研究所で開発されたスーパーロボットの活躍でしょ。
しかも戦闘はいつも、どこかの知らない街だったり原野だったりで。
そういうロボットアニメに革命を起こしたのが『機動戦士ガンダム』でした。
絵空事のSFだけど、それまでになかったリアリティを持ち込んで、物語の舞台に繰り返し使える強度を持たせたことは大きいです。
『パトレイバー』も同様に、従来の作品になかった世界を見せてくれました。
そうやってマンガもアニメも、少しずつ進化していくのでしょう。
『ガンダム』も『パトレイバー』も未だに新作が作られ続けているのにも、こういった理由があるのだと思います。
こちらは最近(2016年)の作品で、『機動警察パトレイバーREBOOT』。
『エヴァ』の庵野監督のスタジオカラーの「日本アニメ(ーター)見本市」で発表された短編作品です。

いい絵です、よりリアルになってますね。
この作品は東京の下町の谷中で工事用レイバーが暴れるというもの。
パトレイバーを運ぶために山手線の線路を使ったりするのがいいのです。
そして来年からは『PATLABOR EZY』という作品がスタートするそうです。
でも冷静に考えてみれば、二足歩行のこんな大きな機械は非現実的なんですよね。
道路の舗装は思うほど丈夫なものではないから、レイバーが歩けば穴だらけになって補修するのが大変です。
(現実のキャタピラのついた工事車両はそのままでは道路を走れない)
電線だって街中に張り巡らされているし、歩道橋もあればアンダーパスもある。
意識して街を歩いてみれば「こりゃ無理だわ」って思うはず。
しかも今の建設機械を組み合わせた建設現場って効率的にできているし、更なる効率化も進んでいます。
物を釣り上げるならクレーン、穴を掘るならユンボ、どちらもレイバーには不向きな作業です。
二足歩行のバカみたいに高価な機械なんて入れる必要はないのです。
今日もタマネギ炒飯にしました。


紅生姜は後乗せ、人間は成長するのです(笑)。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
