こないだ『ウルトラQ』のことを書いたので、その勢いで今度は『ウルトラセブン』のことを書きます。
それも私が一番気に入っているエピソードの、第四十三話「第四惑星の悪夢」です。
今回はその魅力を語ります。
ネタバレ有りで、ちょっと長いです……
前にもちょっと書きましたが、どんぶり勘定の円谷プロは『ウルトラマン』に続き『ウルトラセブン』でも予算管理に失敗し、後半はいかに安く済ませるかという方向に行ってしまいます。
それでも『マン』の39話に対して『セブン』は49話ですし、『セブン』は当初は3クールだったところを高視聴率を評価されて十話追加された分まで完走したわけですから、少しは改善されたのかもしれません。
(『マン』は局側は4クール目を希望したが、円谷プロに断られて(実質的に不可能だった)3クールで終わった)
(『マン』は初めてのカラーでの特撮番組という部分で当初から失敗が多く予算を浪費してしまった)
『セブン』の後半は怪獣や宇宙人の着ぐるみをあまり使えないことから、等身大の人間の姿の宇宙人を使ったストーリーを作らざるを得なくなり、従来になかったSF色の濃い作品も生まれたわけです。
この「第四惑星の悪夢」もその中の一本です。
「第四惑星の悪夢」(脚本:川崎高(← 実相寺のペンネーム)・上原正三、監督:実相寺昭雄)
地球防衛軍は長距離ロケットを開発、そのテスト飛行が行われた。
テスト飛行のパイロットに選抜されたのは、ソガ隊員とダン隊員。
(ウルトラ警備隊は地球防衛軍内の組織)
ただしロケットは自動操縦なので、二人はただ寝ているだけでよかった。
ところがロケットは、飛行中に予定のルートから外れていってしまう。
ウルトラ警備隊の必死の捜索にも関わらず、ロケットは見つからなかった。

二人を乗せたロケットは地球そっくりの惑星に到着していた。
ここが地球なのか、違う星なのか、確信が持てない二人だった。
本部への通信は繋がらず、二人は外へ出てみる。

※こういう無機質に開発された場所を使って、異世界感を出す辺りはさすがです。
私もこういう景色は好きです。
穏やかな晴天なのがまた不気味さを増します。
日本語の表記を発見して、ここが日本だと分かってほっとする二人。
ひと気がない中、やっと見つけた人は無言で去っていき、公衆電話は繋がらない。

※実相寺監督らしい、独特の演出です。
この庵野監督みたいな女性はなぜここにいて、なぜ割烹着なのか?
なぜ無言で去っていってしまったのか?
カメラアングルも普通じゃない絵が続き、東京でロケしたはずなのに異世界感が凄いです。
こんな場所を自転車で走る少年がいて、ダンプカーにひかれそうになる。
それを助ける二人。

ところがこの少年は、誰もが知るはずのウルトラ警備隊や地球防衛軍を知らないと言うのだ。
※ここでソガ隊員は大変なセキュリティ違反をしてしまいます。
少年「おじさんたち、どこから来たの?」
ソガ「地球防衛軍さ、富士山のふもと」
秘密基地の場所を少年に漏らしてしまったのです。
(これは単なるツッコミです(笑))
そこへ軍隊がやってきて、二人は捕らえられて連行される。
(二人ともM-1カービンを胸に突きつけられている、この光景も異常)
連行されて大きなビルに入っていく二人。
鞭を持った軍人らしき男が、このビルは我が国の総合センターだと言う。
そして長官が待つ部屋へと入らされる二人。

※子供が見ても異常さが伝わる絵作りです。
クーブリックの映画みたい。
(後方は絵か?)
この長官が言うには、ここは地球ではなく第四惑星で、二人のロケットは自分たちが強制的にここに着陸させたとのこと。
第四惑星は元々は地球のように人間が支配していたが、ロボットに仕事を任せすぎた人間はやがてロボットに支配されるようになったらしい。
(長官が目の辺りと後頭部を外して中の歯車を見せるシーンは有名)
(今なら電子回路か?)
長官には人間の秘書がいて(アリー)、長官にコーヒーを持ってくる。

アリーのコーヒーを一口飲んで、長官は立ち上がって吐き捨てるように、
「ぬるい! 砂糖も多い!」
と言い、アリーを殴る。
※ここはつまり、人間はロボットと違って曖昧でいい加減だと言いたいわけです。
このセリフがあまりにも印象的だったので、これも仲間内で流行りました。
何を飲んでも食べても「ぬるい! 砂糖も多い!」って言ってましたね。

アリーはこっそりとダンにメモを渡す。
そこに書かれていたのは「あなたたちも殺される 地球が危ない」だった。
長官は地球に攻め込んで、地球を自らの手に入れようと計画していた。
ロボットにとっては人間など、虫けら同然なのだ。

※私が若い頃に働いていたマシン室はこんな感じでした。
今は紙テープなんて使わないし、もっとコンパクトになっています。
二人は隙を見て逃げ出す。
迷路のような総合センター内を走り回っていると、アリーが現れて二人を誘導する。
総合センター内のテレビ局では、ドラマの銃撃戦の撮影で実弾が使われていた。
たかがドラマのためにバタバタと死んでいく、エキストラの人間たち。
この星では人間の命など、そのくらいの価値しかないらしい。
本当に撃たれて死んだ人間の遺体が、トラックの荷台に山積みにされていた。
二人はその遺体の山にまぎれて脱出し、郊外でアリーとその弟(さきほど自転車で事故った少年)と合流する。
※ここで今でも不思議に思っているのは、二人が逃げ出すのを誰も止めなかったことです、まるで泳がせるように。
まぁ逃げたところですぐ捕まえる自信があったのかもしれませんけど……
そして死体にまぎれて脱出するところはかなりグロい印象です。
第二次大戦のレジスタンスの映画みたいですね。
二人はアリーの車でロケットの場所まで近づくが、多数の兵隊が警備していて近づけない。
(この期に及んでも本部と連絡を取ろうとするソガ隊員が悲しい)
アリーは言う、
「人間の街に行きましょう!」
と。


※ここはおそらく、郊外の大規模開発された団地で撮影されたと思われます。
空に月を四つ足すことで異世界感を出しているわけです。
人間はこの団地に押し込まれて生活していた、という悲しい設定ですね。
そしてこの先はロケで、本物の団地の住人も交えての撮影です。
子供たちが騒ぐ中でのゲリラ的なロケだったと思います。
(後方にロケと関係なく遊ぶ親子などが見える)
エキストラに下手に演技を求めないほうがいいという判断でしょうか。

※第四惑星に来たばかりの頃に、ガソリンスタンドで「ガソリン」の文字を目にしたソガ隊員は「なんだ、やっぱり日本じゃねぇか」と言います。
でもこのナンバープレートには、解読不能の文字が書かれています。
この辺りの設定のブレが気になります。
第四惑星の住人が日本語を真似る必要はないだろうし……

※こいつの「人間ども!」という言い方、東側っぽい軍服、実に嫌らしいキャラになっています。
しかも常にガムをクチャクチャと……
※アリーの右手のリングは、もしかしたら母親の形見なのかもしれません。
ロボットに殺された天国の母親に救いを求めるような心情なのかも。
地球人の二人を助けた理由も、その辺にありそうです。
弟を養うために、長官の秘書なんて嫌な仕事を我慢してやっているとしたら不憫ですね。
人間の街に逃げ込んだのはいいが、二人のことを誰も匿ってくれない。
そうこうしている内に、あの鞭を持った軍人と長官が部下たちとやってくる。
なんとか二人を隠したものの、アリーとアリーをかばった男性(恋人?)は連行されていく。
処刑されるのだ……
大きな体育館。
アリーとかばった男性が、目隠しをして立たされている。
体育館に似合わぬ軍人たちが銃を持っている。
観客席にはなぜか弟だけがいて、それなのに大歓声が響き渡る。
銃殺刑の直前に、ソガとダンが乱入して体育館は銃撃戦となってしまう。
すると上から重低音が聞こえてくる。
長官が言う。
「見ろ、我が第四惑星の地球侵略部隊だ」
「地球もまもなく、我が掌中に落ちる」
多数の戦闘機が飛び立っていく。
※この辺りの演出は、戦争の怖さを感じてしまいます。
通常の『セブン』なら、戦闘機の音に重低音は使いません。
そしてきっと戦時中の軍人なんて、このロボットと大して変わらなかったのでしょう。
ソガ隊員が撃たれて負傷!
(銃を撃つ軍人の無表情さが怖い)
同じように撃たれそうになったダンは、ウルトラアイでセブンに変身!

※この回を見たみなさんお気付きと思います。
ダンはソガや長官や弟の前で変身しているのです。
セブンの秘密バレバレ。
この辺りのいい加減さはこの回の欠点ですね。

※巨大化したセブンは今までいた建物を破壊しながら登場します。
この時点で、ソガや弟たちは死亡してしまったとしか思えません。
もちろん長官も、嫌らしい軍人も、アリーもです。
子供の頃の私だってそう思いました、少しは考えて作ってほしいです。
セブンは周囲の建物を次々と破壊!
そして飛び立った地球侵略部隊もその基地も、徹底的に破壊する。
その後、二人を乗せたロケットは地球に向けて飛んでいく。
※ここも疑問なのですが、地上に降ろされた二人のロケットはどうやって宇宙空間に出られたのか?
そしてソガ隊員はどうやって生き延びたのか?
セブンが建物を壊しまくるのも異例ですよね。
まぁそれでロボット側の優位が崩れるとは限りませんけど。
あと願わくば、最後にアリーや弟の笑顔が見たかったです。
地球に無事戻れた二人。
薄暗い司令室は笑顔に包まれる。
でも様子がおかしい?
なんと、二人が第四惑星で経験したことを話しても、誰も信じなかったのだ。
変な夢でも見たのだろうと、本気にしない人たち。
アンヌだけは少し信じそうになるが、キリヤマ隊長は、
「疲れてるな、ゆっくり静養でもしてこい」
と、部下の報告を握りつぶす。

最後は二人が私服のリラックスした様子で郊外を散歩するシーンで終わる。
※第四惑星のことを無かったことにして終わりたかったにしても、ここは強引すぎました。
軍隊のようなウルトラ警備隊が、部下の報告を信じず握りつぶすなど有り得ないことです。
この回は全体が不気味でシリアスで怖くて良かったのに、最後がねぇ……
しかも当の二人が、ほとんど抗議もせずに状況を受け入れてしまったのもダメだと思います。
これでは第四惑星で見た悲劇の数々が無意味になってしまうじゃないですか。
命がけで二人を守ろうとしたアリーのことを考えて、胸が傷んだりしないのでしょううか。
※どうやらこの回は最初に上原の脚本があり、それを実相寺がいじったらしいのです。
最初の脚本がどうだったのか、読んでみたいですね。
聞いた話だと、抑圧されてきた人間たちが蜂起して戦う場面もあったとか。
※アリー役の愛まち子は女優と歌手をやっていて、多数のレコードを出しています。
石原裕次郎とのデュエット曲もあったらしいです。
お綺麗な方ですね。
というわけで長くなりましたが、「第四惑星の悪夢」を語ってみました。
こんな荒唐無稽な物語でも視聴者の心に響くのは、演者がみなさん真剣だし上手いからです。
いい加減にやっている人がいたら台無しですもんね。
記憶に残る名作だと思います。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。