私は十代の頃にモデラーでした。
その頃はプラモデルがブームで、若い男性の多くがハマってました。
今大人気のガンプラとかのキャラ物は少なくて(明らかに子供向けの物しかなかった)、戦車・戦艦・戦闘機のスケールモデルが多かったです。
そういうのをいかにリアルに本物らしく作るかをみんなで競っていたのです。
そういうニーズがあって、私は戦史や武器兵器のことに詳しくなっていったわけですね。
当時人気があったのは第二次大戦当時の武器や兵器です。
私は軍用機と軍艦をよく作っていました。
戦車も作りましたけど、人気のあるドイツ軍の戦車はちょっとハードルが高くて。
なぜなら、ツィンメリット・コーティングが面倒だったからです。
これで分かる方には一発でご理解いただけると思います。
ツィンメリット・コーティングとは、第二次大戦中のドイツ軍の戦車の表面に塗られたものです。
その成分は、調べてみてもよく分からないものです。
いや、成分は判明しているのですが、私には何だか理解できていないということですね。
セメントみたいなモルタルみたいなものを戦車の表面に塗ったとイメージしてください。

↑ ツィンメリット・コーティングを施したティーガー1
腰掛けているのはミハエル・ヴィットマン
88mm砲の大きさがよく分かる
この画像で、戦車の表面のゴツゴツしたのがツィンメリット・コーティングです。
このコーティングには磁力を防ぐ効果がありました。
なんでこんな物を塗りつけたのか?
それは、ドイツ軍が開発した兵器に理由がありました。
第二次大戦当時のドイツは、世界の先端を走るハイテク国家でした。
戦争に勝つために様々な武器兵器が開発されて、それらの多くは実戦で使われ勝利に貢献したのです。
そんな武器兵器の中に、吸着地雷というものもありました。

↑ 吸着地雷(Hafthohlladung)
歩兵が持ち運べて、磁石によって敵の戦車の表面にくっつけることが可能で、先端にあるつまみを引っ張ると信管が作動して数秒後に爆発。
敵の戦車の装甲を破壊して車内に火炎を送り込むという兵器です。
そうなれば戦車兵は丸焦げ、弾薬に火がついて大爆発!
こんな低コストの兵器で戦車一両が破壊されたのでは堪ったものではありません。
ドイツ軍は大真面目に、この兵器は敵も真似をすると想定しました。
そして戦車の表面に磁石が付かないように、ツィンメリット・コーティングを開発して戦車に塗りたくったのです。
表面をゴツゴツさせたのは、敵弾が当たったときに一気に全部が剥がれ落ちるのを防ぐためです。
と・こ・ろ・が。
考えてみてください。
敵の戦車に触れるくらいまで近づくなんて、普通できませんよね。
もし敵戦車がぽつんと一両だけそこにいたならまだしも、周囲に仲間がいるはずですから。
実際、同様の兵器を開発したのはドイツ以外では日本だけでした。
普通に考えたら、バズーカ砲みたいに離れた場所から使える兵器を使いますよね。

↑ 日本軍の九九式破甲爆雷(通称「亀の子」)
吸着地雷などというものを敵軍が全然まったく使わないことが判明して、ドイツ軍も考え方を改めました。
ツィンメリット・コーティングは1943年に正式採用されましたけど、一年後に廃止されたのです。
また吸着地雷も1944年に製造は中止されて、パンツァーファウストに置き換わっていきました。

↑ パンツァーファウスト(Panzerfaust)
筒状の部分の上部にスイッチがあり、押すと先端の丸い部分が飛んでいき敵戦車を破壊する
現代でも似た兵器は使われている
戦車なんてものは元々重いもので、エンジンには馬力が求められるし、燃費が悪いのも悩みのタネです。
それなのに意味のないコーティングで戦車を重くしちゃって、本当に何やってんだかって感じです。
戦後、ドイツ軍の戦車を調査していたイギリス軍の担当者は、ツィンメリット・コーティングがそんなことのために施されていたとは信じられずに、技術者に本当の目的を教えろとしつこく迫ったとか。
戦車のプラモデルの場合、キットはツィンメリット・コーティングを施す前の段階で作られています。
最近のは知りませんけど、昔はパテを溶剤で溶いてから戦車の表面に塗りつけて、乾く前にマイナスドライバーで凸凹を再現していました。
上に載せた画像などを見ながら、本物そっくりにチョコチョコとね。
模型店の中には、ツィンメリット・コーティング専用のパテを販売していたところもありましたよ。
一生懸命やれば映えますけど、面倒くさいでしょ?
だから私は作りたくなかったのです。
戦車ついでに書きますが。
ウクライナのニュース映像で、戦車の表面に小さい箱のような物が多数くっついているのを見たことのある人もいると思います。
あれ、何だと思います?

↑ これは、爆発反応装甲(Explosive Reactive Armour、ERA)です。
金属製の箱を戦車の表面に貼り付けたもので、接着面に薄い爆薬が仕掛けられています。
敵の砲弾が当たったとき、ERAが爆発することで威力を逸らす役割があります。
爆薬の爆発の力で砲弾を押し返すようなことをしているのです。
ERAは砲弾の種類や当たる角度によって効果は異なります。
ERAを最初に実用化したのはイスラエルで(1982年)、その後ロシアやアメリカなどにその技術は広まっていきました。
でもイスラエルではERAはほとんど使われなくなりました。
というのも、ERAに砲弾が当たって爆発すると、戦車は無事でも周囲にいる歩兵がやられてしまうからだと言われています。
今でも使われているロシア製のERAは、各種砲弾に効果を発揮するように二層式になっているとか。
どちらにしても、戦争なんてやめなさいよって思います。
それにERAなんてのが当たり前になったら、戦車のプラモデルなんて誰も作らなくなりそうです(笑)。
(実際にはERAの別売りパーツなどが売られているらしい、めんどくさ)
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。