今回はまた役に立たないトリビアを書きます。
アメリカの軍用機に描かれている、こういうマークをご存知でしょうか。

(1980年代~)
おそらくニュース映像などで見たことのある方は多いと思います。
これはアメリカの軍用機に描かれている「国籍マーク」と言われるものです。
軍用機の国籍を視認するためのマークで、第一次世界大戦のときにフランスが始めたもので、各国にあります。
ちなみに上の画像がグレー一色なのは、ステルス性を高めるため。
敵と戦闘になったときに、目立って見つかりやすいのは不利ですよね。
そこで地味に(低視認性(ロービジビリティー・Low-visibility))したわけです。
元々はこういう派手なものです。
(細かい色指定などは省略します)

(1947~)
いかにもアメリカーンな感じですよね、アメカジって感じ。
でも見ていて、ちょっと変だと思いませんか?

なんかズレてるし。
なんで?
このズレの理由を解明するには、アメリカの軍用機の国籍マークの変遷をたどる必要があります。
アメリカの軍用機に最初に国籍マークが描かれたのは、1916年のことです。
パンチョ・ビリャ遠征のときにアメリカ陸軍の航空機に描かれた赤い五芒星がそれです。

(1916~1917)
ロシアかよ!?(笑)
同じ頃にアメリカ海軍機に描かれた国籍マークは青い錨でした。

(1916~1917)
これはこれで、オリジナリティがあっていいですね。
そして1917年にはアメリカ軍で共通の、国旗の色を使った円形の国籍マークが描かれるようになりました。

(1917~1918)
中央の赤丸の大きさを覚えておいてください。
この場合は全体の直径の1/3の直径に描かれています。
一方1917年にドイツに宣戦布告したアメリカは、第一次世界大戦に参戦。
ヨーロッパに渡ったアメリカ陸軍航空隊(USAAS)の機体には、ヨーロッパの国々に合わせた円形の国籍マークが描かれました。。

(1918~1919)
イギリスの国籍マークに似てますね。
同時期のアメリカ海兵隊の航空部隊の機体に描かれたのがこちら。

(1918~1922)
国籍マークにオリジナルな要素を追加した部隊マークです。
(描くのが大変そう……)
1919年に第一次世界大戦は終わりました。
そしてアメリカ軍は全ての軍用機の国籍マークを統一します。
それがこちら。

(1919~1942)
ん?
上の国籍マークと一緒では……?
実は中央の赤丸のサイズが少し小さくなっていて、白の五芒星の内側の線を残したとき、その線に接する大きさに変えられたのです。
(若干色味も変わった)
その理由は、何か軍内の規約があったみたいです。
※太平洋戦争が始まる直前の1941年に、アメリカ陸軍航空隊(USAAC)は国籍マークを描く位置を減らして、主翼の上面は左側のみ、下面は右側のみにしました。
アメリカ海軍はこれに反発しましたが、結局全軍で統一されました。
この理由は、
① 敵味方の識別がしやすくなること
② 敵機から狙われたときに左右対称だと当てやすいから
の二つと言われています。
※アメリカ空軍というのは昔はなくて、陸軍の一部門としてあったのがアメリカ陸軍航空部(United States Army Air Service、1918~1926)でした。
それが再編されて、アメリカ陸軍航空隊(United States Army Air Corps、1926~1942)になりました。
1941年にアメリカ陸軍航空軍(United States Army Air Forces、1941~1947)が創設され、1942年にUSAACを統合。
そして戦後の1947年にアメリカ空軍(United States Air Force、1947~)となるのです。
太平洋戦争中の日本軍にも、空軍は存在していませんでした。
さて、太平洋戦争が始まってアメリカと日本が戦うようになると、日本軍機に描かれた赤い丸の国籍マークと上記のアメリカの国籍マークが似ていることが問題となります。
特にアメリカ海軍機は上面をネイビーブルーで塗っていましたから、赤丸だけが目立ったわけです。
そこでアメリカ軍は1942年に、赤丸を消した国籍マークを採用します。

(1942~1943)
地味ですねぇ。
(イギリス軍でも似た措置が取られた)
それから1942年に、北アフリカ戦線のトーチ作戦にアメリカ軍が参加したときに、仲間のイギリス空軍の当時の国籍マークに似せて外側を黄色で囲んだ国籍マークが使われました。

イギリス空軍のタイプA.2およびC.1ラウンデルと呼ばれるもの。

(1942~1943)
これは一時的なもので、一部の部隊は主翼上面の国籍マークに黄色の枠は描かなかったようです。
さて、地味なほうに戻って。
どうもこの国籍マークも現場では不評で、結局同じ丸だからいけないのだとなりました。
そこでお馴染みの「羽」が追加されたのです(Star and Bar)。
そして全体の形を強調するために、赤で囲いました。

(1943)
かなり今っぽくなってきましたね。
一部の部隊では赤は目立つから嫌われたようで、この赤い枠のない国籍マークも使われています。
ところが。
たった二ヶ月後にやはり赤はよろしくないということになって(ええかげんにせえよ、笑)、赤枠は青で塗りつぶされます。

(1943~1947)
このとき、中の丸の青と枠の青が違う色だった部隊もあったそうです。
さてこうなったとき。
アメリカ海軍機ってどんな色でしたっけ?

↑ F6Fヘルキャット(日本で「グラマン」と呼ばれていた戦闘機)
ほら、機体がネイビーブルーでしょ。
だから国籍マークの青とほとんど同じで、見分けがつかなかったのです。
じゃあ白だけでいいじゃん。
それで現場では白い部分だけを描くようになって、後にそれが正式に採用されたのです。
※私が中学生の頃に違和感を持ったのは、この時期の米軍機のプラモデルを作っていたときです。
この白だけのマークを最初に見たら、白い羽の白い星と接する辺って直線なのが自然でしょ。
なのにちょっと曲線になっていて、「なんで?」って思ったのです。
戦争が終わった後の1947年。
アメリカ空軍が創設される少し前に、もう戦争は終わったのだからやっぱり赤を入れようよという話になり、白い羽の中央に赤い線が入れられました。
それが上から二つ目の、今でも使われている国籍マークです。
今回は柔軟な運用となり、機体がネイビーブルーやブラックの場合は青い部分は省略可になりました。
長くなりましたが、アメリカ軍機の国籍マークにはこういう変遷があったのです。
この流れがあっての今のマークなのです。
それにしてもよく変えてますよね。

だから単純に、丸と星を描いて羽を付ければいいというものではありません。
細かい部分ですが、見る人が見れば分かってしまうのですよ。
ちなみに酷評されてしまった映画『パール・ハーバー』。
史実を完全に無視して作られた、珍しい戦争映画です。
あまりに評判が悪いので、私は観ていません。
聞いたところによると、この間違いだらけの映画の中では、イギリス空軍に所属するパイロットがアメリカの国籍マークを付けた戦闘機で日本軍機と戦うシーンがあるとか。
あのー、それって国際法違反では?(笑)
甲田まひるのニューアルバム『sweetest,me』が10月24日デジタルリリース決定しました!
楽しみ楽しみ。
今度はどんな音を聴かせてくれるのでしょう?
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。