『攻殻機動隊(こうかくきどうたい)』といえばSFファンなら知らぬ者はいないくらい有名な作品です。
元々は士郎正宗の描いたマンガから始まっています。
そして数回のアニメ化、他のマンガ家による派生作品、小説、ゲームなど、多岐にわたる広がりを見せています。
※士郎正宗は『THE GHOST IN THE SHELL』という英語のタイトルを最初に出していて、編集者からの求めで『攻殻機動隊』というタイトルになったものの、英語のタイトルも載せてほしいと拘りがあったそうです。
(”THE”は取ってはいけません)
最初に発表されたのは、講談社の『ヤングマガジン海賊版』(『ヤンマガ』ではない季刊誌)で1989年のことでした。
あれから36年!
若いSFファンが当時のことを知らないのも無理はない話で、やれ「休載ばかりしていた」だの「未完結」だのとホラを言うのがいるわけです。
士郎正宗というマンガ家は関西の人で、関西の大きくはない出版社(青心社)で単行本デビューをしています。
デビューが在京の出版社ではなく、雑誌連載でもないという、マンガの世界では異例中の異例だったわけです。
彼は姉と同じ大学の美術学科に入り、姉の所属するマンガサークルのお手伝いとしてサークルに参加してみたら、彼のほうが全然上だったというのがマンガを描き始めた頃の話。
彼が同人誌として出した『ブラックマジック』を、サークルのメンバーが大阪の置いてくれそうなお店を回って売っていたところ、青心社の社長が気に入って「うちで本を出さないか」という話になったそうです。
(あのゼネプロでもこの同人誌を売っていてカタログで激褒めされていた)
(この1980年代は大阪でSFがやけに盛り上がっていた時代)
青心社から出た士郎正宗の『ブラックマジック』『アップルシード』『ドミニオン』などの当時の作品は、SFファンからは大絶賛されて大きな人気を得ます。
(NHKの『BSマンガ夜話』では「久しぶりに読者より頭のいいマンガ家が出てきた」なんて言われてました)
そして講談社から声がかかって、いよいよメジャーへ殴り込みとなったわけですね。
それがこの『攻殻機動隊』という作品なのです。
私は通勤電車の中吊り広告で、連載開始を知りました。
それがヤンマガの広告だったのか、海賊版の広告だったのかは覚えていませんけど、端っこに書いてあった「士郎正宗」の文字を私は見逃しませんでした。
この情報はおそらく、日本中のSFファンを驚かせたと思います。
そしてその後は三ヶ月に一回のお楽しみとなったわけですね。
『攻殻機動隊』は休載になったことは一度もなく、きちんと最後まで描かれています。
たぶん当時のSFファンの多くは海賊版を発売日に買って、そのままか『攻殻』のページだけ切り取って保存していたと思います。
私は切り取り派でした。
(海賊版に掲載されていた他のマンガは自分には全然合わなかったため)
士郎正宗のマンガは欄外に大量の注釈が入るのが特徴で、雑誌だとそれが切れていることが結構あって、発売日に書店をハシゴした記憶があります。
(買う前に『攻殻』の全ページを確認していた)
(「ヤンマガ海賊版」は売れ筋ではなかったので一店舗一冊しか置いてなかったため)
連載終了後しばらくしてから単行本が出ました。
これもファンを驚かせました、加筆が凄く多い単行本だったのです。
つまり、連載時と違っていたり増えていたりしていたといこと。
例えば。

単行本では本編はこのページから始まっています。
ファンにはお馴染みですね。
ここからの「PROLOGUE」が7ページ、オールカラーで描かれています。
海賊版では。

これが記念すべき最初の扉絵です。
これを講談社の雑誌で見られるとは、感動しましたよ。
そしてページをめくると……

これが第1ページ。
そう、「PROLOGUE」は単行本描き下ろしなのです。
あの、押井守の映画版の忘れがたいオープニングの元となった部分は、雑誌では描かれていなかったのですよ。
この辺のことは作者自身が単行本に書いています。

カラーとモノクロを分けて、雑誌掲載時と描き下ろしのページ数が表示されています。
また雑誌掲載時にモノクロだったページに彩色したページ数まで書かれています。
こういうのを見ると、士郎正宗という人はサービス精神が旺盛なのだと思ってしまいます。
これが雑誌掲載時。

そしてこちらが単行本。

こうしてモノクロのページに彩色をしているのは、カラーのページからモノクロのページへと自然に繋がるような演出です。
この後のページは色が淡くなっていき、急にモノクロのページが出てくるようなことはないのです。
サービスサービス(笑)。
あと海賊版のページから。

このコマが単行本では。

彩色されているだけではなく、コマ一個が丸々描き替えられています。
それだけ拘りがあるのでしょう。
こういうコマを入れ替えたりセリフを替えたりということがアチコチでされているのです。
あとクライマックス。

少佐が人形使いとアクセスするシーンですが。
この次のページは……

ね。
単行本ではこの間に6ページも足されていて、その他コマの描き直しもされています。
単行本を読み慣れていると、雑誌のほうがいやにアッサリに思えてしまいます。
あと笑ったのが。

右と左のページで紙の色が違う!!
ねぇ、今の出版社で士郎正宗の作品に対してこんな仕打ちをするところがあると思いますか?
当時はこんな扱いだったのです。
そして雑誌連載のラスト。

これで終わっているのです。
単行本を読んだ方なら、「こんなところで終わるなよ!」 って思いますよね。
この後が大事なのに。
(今となっては「THE END(!?)」は笑える)
んなわけで、マンガ『攻殻機動隊』は単行本で完成された作品なのです。
雑誌のほうは今となっては国会図書館にでも行かないと読めませんが、気にすることはありません。
ちなみに。
士郎正宗の『PIECES Gem 01 攻殻機動隊データ+α』(← amazon)という本がありまして。
彼のイラストと、彼が書いた文章(裏話的な)を読める本です。
普通マンガ家というのはあまり前には出てこないし、作品のことも詳細には語ってくれないので、こういう本はファンには有り難いです。
この本の中で、士郎正宗は『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX(略してSAC)』というアニメ作品のことをケチョンケチョンに貶しています。
彼自身が関わったにも関わらず、とんでもないことになったのだそうです。
知りたい人は読んでみてください。
ま、SFに詳しければ、SACを見て笑わない人はいないと思いますよ(笑)。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。