私が最初に一人暮らしをしたのは、東京都大田区西蒲田でした。
今から40数年前のことです。
なぜ西蒲田だったかといえば、仲間が数人既に住んでいたからです。
新卒で就職した会社へ行くにも便利な場所でしたし。
そこは一戸建ての一部を改装して作られたアパートで、母屋の二階の一部だけがアパートで、作りたてで二世帯だけでした。
外階段があるから、母屋のことは気にする必要はなかったです。
風呂なしでしたけど、隣が銭湯でコインランドリー付きでしたから。
初めての一人暮らしには合っていて、普段銭湯に通う生活というのもよかったです。
大家さんは優しかったし、蒲田駅周辺は栄えていたし。
初めての一人暮らしでは色々ありましたけど、おかしな訪問者が一番印象に残っています。
一人目は、アジア系と思われる三十歳くらいの男性です。
どこのどなたかは存じません。
ある晩、そろそろ寝ようかと思っていた時間帯です。
玄関のチャイムを鳴らされたので玄関を開けると、その男が立っていました。
※この当時はまだ警戒心が薄くて、チャイムが鳴ると無条件に玄関ドアを開けていました。
今考えたら危険ですよね。
知らない色黒のアジア人が言うには、この部屋に知り合いが住んでいるはずだと。
私はその人を知らないと答えました。
それなのに彼は引き下がらず、モジモジしています。
こっちは早く寝たいのに、と思っていたら。
「お金がないから貸してください」
と言い出しました。
今なら即ドアを閉めて終わりです。
でも当時はまだ私は世間知らずだったし、バブル景気が盛り上がっていた頃です。
どうせ返ってこないと思いながら、三千円を渡したら彼はお礼を言って去っていきましたよ。
いいことをしたのだからと自分を納得させていた私ですけど。
考えてみたらここは新しいアパートで、私が最初の住人で、前の住人など存在しないのです。
まんまとやられました。
二人目は、中年の女性でした。
その人は昼間に数回やってきました(つまり私がお休みの日)。
この人もどこの誰かは知らないけれど、うちの玄関のチャイムを鳴らすのです。
それでこちらもまだ無防備だから、玄関ドアを開けてしまい。
その女性はいつも怒った顔をしていて、言っていることが分からないのです。
「あなたのせいで」「あなたが悪い」という文句を言っているのですけど、文法がメチャクチャで意味が分かりません。
だからこちらもそれは私ではないと言っているのですが、それを一切受け付けず。
しばらく押し問答になってから、急に帰って行くのです。
そんなことが数回あって、私は110番しました。
他に手段はないと思ったし、真面目に納税しているのだから抵抗もなかったです。
すぐに警察官が来てくれて、話を聞いてくれて。
数日後に警察から電話が来て、その女性が見つかったこと、今後うちには行かせないことを伝えられました。
ホッと一安心。
その後、大家さんに家賃を納めに行ったとき、その女性は近所の住人だと教えられました。
(そこは家賃帳にハンコをもらう方式だった)
近所で娘さんと二人暮らしで、頭がちょっとアレだったそうです。
大家さんからはご近所のことなので、警察に通報する前に一言欲しかったと言われてしまいました。
そんなこと言われても、怖かったのだから仕方がありません。
こちらとしては、早期解決に至って万々歳ですよ。
三人目はお隣さんです。
三十代の男性で、会えば挨拶する程度の関係です。
ある晩、私が寝ようと布団を敷いていたらチャイムが鳴って、その男性が立っていました。
「(こんな夜中に非常識な、何の用だよ?)」
と思ったら、彼は部屋の鍵を無くしてしまったようで、うちの窓から自分の部屋に入りたいとのこと。
少しお酒の匂いもしました。
ここでゴネてもしょうがないので、部屋に入れたら本当に窓伝いに自室に入っていきましたよ。
マンションみたいなベランダではなく、昔ながらの手すりが張り出した程度のものなのに。
もし落ちて大怪我でもしていたら大事件です。
それでその晩は無事解決しました。
その後その部屋に仲間が集まるようになって。
おしゃべりの中で、お隣さんの話も出ました。
彼は夜帰ってくるとまずトイレに入るらしく、臭いが凄いという話もしました。
それでみんなで笑っていたのですが……
みんなでうちの近所を歩いていたとき、そのお隣さんが前から自転車で走ってきたのです。
私は反射的に会釈したのですが、お隣さんは私の仲間に向かって、
「おう、◯◯じゃねーか!」(◯◯は仲間の名前)
と言って、その仲間も「こんちはー!」と返して。
なんと、お隣さんは私の仲間の職場の先輩だったのです!
その後は盛り上がりましたね、毎晩臭う隣人が仲間の先輩だったのですから。
隣人は別に嫌な先輩ではなくて、仲間にとっては仲良しなのだそうです。
でも、それまで知らなかった先輩の秘密(臭い)を仲間全員が知ってしまったわけで。
私のお隣さんだった偶然も面白かったです。
それでみんなで隣人の似顔絵を描いたりして、しばらくはネタにしてました。
あの隣人は今はどこで何をしているのでしょうか?
一人暮らしをしていると色々なことが起こります。
そしてそれらは基本的に、自分で対処しないといけません。
楽しい反面、色々大変なのです。
いよいよ明日から秋が深まっていくようです。

気温が下がってくると、お鍋とか熱燗とか、楽しみが増えますね。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。