私が40代の頃、住んでいたマンションは都心なのにテレビの電波状況が悪くて、それで地元のCATV局からテレビの信号をもらっていました。
建物に最初からCATVの信号が来ていたので、部屋ごとにCATVと契約すればチューナーを設置するだけでCS放送が見られたわけです。
それで私も契約をして、あの頃はチェックするだけでも大変な数の局を見ていました。
そんな中で新鮮だったのが、ヨーロッパのサイクルロードレースでした。
日本の地上波ではほとんど放送されませんからね。
グランツール(三大サイクルロードレース)なんて初めて見て、凄いなぁと思って。
特に選手のカッコよさには痺れましたよ。
まぁ日本人とは足の長さや頭の小ささが違うので当然ですけど、憧れちゃってね。
それでロードバイクを買って走り始めたわけです。
※グランツールは、
・ツール・ド・フランス(フランス一周)
・ジロ・デ・イタリア(イタリア一周)
・ブエルタ・ア・エスパーニャ(スペイン一周)
の三つを指します。
これにツール・ド・スイス(スイス一周)を加えることもあります。
私は元々自転車で走り回るのは好きでした。
レースよりもポタリング、つまり自転車散歩が大好きでね。
一人でウロウロするのは性に合っていました。
自転車ってインパクトがないスポーツです。
足でペダルを回すことがメインでしょ、ただグルグルと、自分の体との戦いと言いますか。
ボールを打つとか蹴るとか、そういうインパクトがない所も気に入っています。
ただ賃貸マンションを転々としていると自転車は置き場に困ることがあるので、それまでは買わなかったですけど。
例えば当時の日テレ『鉄腕DASH!』で、TOKIOのメンバーが個々に自転車に乗って麹町の日テレから湘南海岸を目指して走る企画なんて、ワクワクしながら見たものです。
あとBSフジの『東京の散歩道』を見て、街を歩き回る楽しさに気付いたりしていましたから、素地はできていたと思います。
ただ日本人がロードバイクに乗ってヘルメットを被ると、胴長短足で頭デッカチだからどうしても「キノコ星人」になってしまって悲しいのです(笑)。
メッセンジャーの中には、自分の頭がギリギリ入らないくらいのヘルメットを買って中のクッションを切り取ってしまうのもいますけど、危険なのでやめたほうがいいです。
アレは本当にカッコだけなので。
私が好きだった選手の一人は、パオロ・ベッティーニ(Paolo Bettini)と言います。
イタリア人でサイクルロードレース界のスーパースターですね。
オールラウンダーで、オリンピックや世界選手権などでトップを獲った人です。
とんでもなく強い選手です。

この人の何が良いかって、自転車界の番長だったんですよ。
サイクルロードレースには明文化されていないマナーというか掟があって、みんなそれを黙って守っているわけです。
でもたまにそれを守らない選手がいたりして。
レース中にそれを見付けるとベッティーニはすぐその選手のそばまで行って、拳を振りながら叱るという。
カッコいいったらありゃしないのです。
サイクルロードレースの面白さというのは、ちょっと分かりづらいのです。
私でもきちんと理解しているとは言えなくて、常に勉強しつつ今の選手達をチェックしていないとダメでしょうね。
それは野球やサッカーと同じなのだと思います。
あの頃はスポーツ観戦をしない私にしては珍しく、熱心に観戦していました。
記憶に残っているレースがありまして、十年以上前のツール・ド・フランスだと思います。
前半の平坦ステージで、峠のないステージというのは単調なものです。
序盤に五人が飛び出して、先行グループを形成して。
普通は終盤に後方の集団がペースを上げて、先行グループを吸収してからの勝負となります。
自転車っていうのは風との戦いでもあって、だから選手達は固まって、または一列になって、先頭の選手が風除けになって、それを交代しながら走るのです。
(集団がのんびり走っているように見えてもあれで40km/h台は出ている)
集団の人数が多ければ交代要員が多いわけですから楽です。
少人数だと繰り返し先頭を走らなければならないので大変です。
だから長く走っていれば、後方の大集団が追いつくのが普通です。
ところがその日は追い風で。
先頭集団は中々ペースが落ちなくて、後方集団は差をつめられなくて。
どうなるどうなる? と思って見ていたら、ゴールが近くなってからやっと集団が追いつきました。
その瞬間、一人の選手が飛び出しました!
ゴールスプリントにはまだ早いですけど(ゴール前の70km/h超えのスピードは短時間しか出せないから)、意表を突かれて後を追うのに遅れたらそのまま行かれてしまう可能性もあります。
そのとき。
他チームのアシストが一人、すかさず後を追って飛び出し先を行く選手の後ろに付けました。
これでもう、飛び出した選手の勝ちはなくなったのです。
二人の実力差はどうでも、飛び出して先頭を行く選手は風を受けていて、真後ろに付けた選手は風を受けないので足を残せます。
早すぎる飛び出しだけにゴール前で勢いが落ちるのは当然で、そこで追いかけた選手が抜けば勝てるわけですね。
この一瞬の駆け引きの面白さ!
それが分かっているから、飛び出した選手は諦めました。
結局勝ったのはこの二人ではなく、後から追いかけてきた選手達の中の一人でした。
どのスポーツでもその面白さを理解するには時間がかかります。
でもある程度理解できれば、見ていて盛り上がれるのです。
サイクルロードレースというのはヨーロッパで古くからあった競技なので、向こうの人は楽しみ方をよく知っています。
そこまで達するためには、沢山のレースを見てチームや選手のことも知らないと。
日本はまだまだですね。
サイクルロードレースの知名度はまだまだですし。
自転車のルールやマナーを守れない人が多いうちは、日本は自転車後進国なのだと思います。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。