スプーキーじいさんって何考えてるの!?

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イギリスのカレーの歴史をちょっとだけ

私が今度作ろうと思っている料理は、

チキンティッカマサラ

です。
おそらくご存知の方、食べたことがある方もいると思います。
バターチキンカレー(ムルグマカニ、ムルグマッカニー)によく似た料理ですが、日本での知名度はバターチキンカレーの圧勝でしょう。
この二つの料理の違いについても、あちこちで議論になっています。

チキンティッカマサラ、バターチキン、そしてチキンマカニの違いって何?

Reddit ↑

 

日本でバターチキンカレーが大ヒットしたキッカケは、無印良品のレトルト商品からです。
もっと前からバターチキンカレーという名の商品はあったのですけど、本場インドのものとは違っていました。
無印良品のレトルトも最初はそうだったのです。
それを(おそらくにしき食品(← オンラインショップ、にしき食品は無印カレーの主な製造所)の人たちがインドで本場の味を確認して、作り方を変えていったことでヒットしたのです。

 

 

そして無印良品のレトルト商品の中に、チキンティッカマサラもあります。

(↑ どちらもにしき食品が製造所

チキンティッカマサラはイギリスにおいて、凄くメジャーな料理となっています。

 

 

 

wikiなどを読むと、チキンティッカマサラはイギリス生まれの料理とされていますが、wikiに書かれている内容はどうやら微妙なようです。
以前からよく取り上げている近代食文化研究会の『新しいカレーの歴史 上』によると。

amazon ↓

よく言われている、

1960年代のイギリスのインド料理店で、出されたチキンティッカがパサついていると客が文句を言って、それで料理人がキャンベルのトマトスープにクリームとスパイスを混ぜてチキンティッカにかけたところ好評で、これが広まった。

というのは間違いらしいのです。

チキンティッカの一例
個人的に食べた範囲では別にパサついてはいなかったが……

その辺を掘ってみました。

 

 

 

日本に来てインド料理店をやっているネパール人は、基本母国で料理人の経験がある人たちです(調理技能ビザを取得してから来日する)。
そんな人達は日本では絶対に失敗できないという意識が強く、母国の料理よりも「日本人にウケる料理」をお店で出します。
最近は「インネパ店」と言われますが、安いランチメニューのあるインド料理店ではどこでも同じような料理ばかりが出てきますよね。
あれは彼らネパール人が研究した末に「日本人にウケるインド料理」として定番化されたものなのです。
日本人だって「いつものアレ」があったほうが入りやすいですしね。

 

一方のイギリス。
1950年代の好景気で深刻な人手不足となったイギリスは、かつての植民地から無条件で移民を受け入れます。
バングラデシュ人の移民のうちイギリスでインド料理店を始めたのは、インド・イギリス航路の船員でした。
母国で料理をしたことがないような者も船上で料理人から料理を教わりました。
インド・イギリス航路の船上で提供されていたのはアングロインディアン料理、つまりインドが植民地だった頃にインドにいたイギリス人(=アングロインディアン)がイギリスに伝えて、イギリスにある食材を使ってアレンジされたインド料理です。
イギリスでバングラデシュ人が開いた初期のインド料理店は、アングロインディアン料理を出していたのです。
最初っから純粋なインド料理じゃなかったということですね。

 

その後続々とイギリスに渡ってきたバングラデシュ人は、先輩の真似をしてインド料理店を開き、アングロインディアン料理を出していきます。
当時のイギリスは好況だったので、外食産業も盛んだったのです。
また料理の経験がないような者でもお店を始められるように、彼らにカレーペーストを提供する企業も出てきます。
たとえばパタックス(Patak's)はインド料理店にカレーペーストを提供することで成長しました。
パタックスが提供したカレーペーストも、アングロインディアン料理だったのです。

 

 

 

イギリスでインド料理店を開いたバングラデシュ人の料理人は、アングロインディアン料理をアレンジしてメニューを増やし、インド料理店で出しました。
つまり、インド料理とは別物のインチキインド料理が次々と誕生していったと。
チキンティッカマサラも同様で、インドのバターチキンカレーをアレンジしたのです。
それからイギリスのインド料理店で出されるヴィンダルーは、インドのゴア州で食べられているヴィンダルーとは別物の激辛料理です。
以前レシピを書いたポークビンダルーはビネガーの酸味が効いた料理です
これらのことから、チキンティッカマサラは「イギリスで誕生した料理」というよりは、「イギリスでバターチキンカレーをアレンジして誕生した料理」というのが正確なようです。
当たらずとも遠からず。

 

しかし「お客が文句を言ったから云々」というチキンティッカマサラ誕生秘話は、既に作り話であると証言する者が出ているのですよ。
ザ・シナモン・クラブ(← 超メジャーなインド料理店)の創業者・イクバル・ワッハーブ氏による
その場でトマトスープをアレンジしてチキンティッカにぶっかけた料理っていうのも、チキンティッカマサラとはちょっと違いますし。
そもそもチキンティッカがパサパサっていうことは、その料理人は下手ってことになってしまいます。

 

チキンティッカマサラの発祥の地が複数あるのは、同じようにバターチキンカレーをアレンジした料理人が複数いたということでしょう。
誕生秘話が広まったとき、自分のお店が発祥の地になればお客は増えますから、「それって俺じゃん!」と名乗りを上げるのも当然のことです。
一人ひとりの料理人にしてみれば、自分が作り出したというのは本当のことになりますしね。

 

日本にもイギリスにもインチキインド料理を出すお店が多数あり、そこで出す料理の由来としてデマ話が一部で信じられているというのは面白いですね。
銀座の煉瓦亭みたい
またwikiも、安易に信用してはいけないのだということです。

 

 

 

この本で面白いと思ったことはいくつもあって、たとえば日本では家庭で作るカレーといえばメーカーが作ったインスタント(即席)の固形ルー(「ルー」という言葉にも色々あるが)を使うのが主流です。
日本の三大カレーメーカーは巨額を投資して製造設備を作り、固形ルーを大量に製造販売しました。
それでインスタントカレーは安価になり、大ヒットしたのです。
日本のインスタントカレーが安価なのは小麦粉と油が主な原材料だからでもある
カレーを自作してみると、インスタントカレーが脂っこいのがよく分かる
こうなると後発メーカーは参入できず、また製造設備が大規模になると安易に料理の内容を変えることが難しく、日本の家庭のカレーはワンパターン化します。

 

ところが近年、日本ではインスタントカレーを使ってカレーを作るよりも、レトルトカレーを温めて食べるほうが一般的になりました。
レトルトカレーなら大規模な製造設備がなくても色々なカレーを作れます。
そしてレトルトカレーを製造する各社は三大カレーメーカーと勝負するために、新しいカレーを開発することが増えました。
今お店に行けば、我々はバラエティに富んだレトルトカレーを買うことができるのです。

 

イギリスの家庭では、カレーを作るときにはカレーペーストを使うことが一般的です。
スパイスが主な原材料であるカレーペーストは日本のインスタントカレーよりも高価です。
ですがカレーペーストは大規模な製造設備は必要なく、多種多様なカレーペーストが多数のメーカーから出ています。
日本の家庭のカレーは保守的、イギリスの家庭のカレーはバラエティに富み変化も早いという違いがあるのです。
イギリスでカツカレーがブームになったときも、すぐに複数のメーカーが製品を販売しています。
日本のレトルトカレーはこれに似た状況になってきているのです。

 

またイギリスでは二百年も前から、スパイスをブレンドしてカレーを作る家庭がありました。
日本では(私のように)スパイスをブレンドしてカレーを作る人は2000年代に入ってから増えています。
日本はカレー文化では、まるでイギリスの後を追っているような状況なのです。

 

 

 

チキンティッカマサラを作ろうとして色々調べていたら、なんだか沼にはまってしまったようです。
そしてイギリスではメジャーな料理だけに、ネット上にチキンティッカマサラのレシピは多数あって、それぞれが違います。

Redditで見つけたレシピのスレッド

Redditには他にもチキンティッカマサラのスレッドが複数ある

知識を追いすぎて、作るモチベーションがやや弱まってしまったような。
まぁ本場の味の再現に拘る必要もないでしょう。
気持ちをリセットして、気楽にやることにします。

 

最後に昨日作ったサバ缶カレー。

比較的簡単なのに美味しくできました。
本場のない、発祥の地もないサバ缶カレーですが、美味しいのが一番です。

 

 

 

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。