今回は昔話を長く書きます。
古いマンガファンなら、「W3事件」というのはぼんやりとでもご存知だと思います。
手塚治虫が週刊少年マガジンで連載していた『W3(ワンダースリー)』というマンガを突然終了して、週刊少年サンデーで同名マンガの連載を開始してしまったという前代未聞の大事件です。
※後に赤塚不二夫も似たような事件を起こしています。
これについては真相はハッキリせず、噂話が飛び交っているだけです。
関係者の証言は少なく、今現在は手塚治虫をはじめとした関係者の多くが亡くなっていて、今後新事実が出てくる可能性もないでしょう。
そんな中で、二年前に橋本一郎がyoutubeで証言しているのを発見しました。
当時の手塚の近くにいた一人であり、非常に説得力のあるお話でしたので、ここに書いてみます。
※橋本一郎は朝日ソノラマでテレビ番組の歌のソノシートをヒットさせて、サンコミックでヒット作を多数だし、少年画報社では編集者として手塚治虫や多数のマンガ家と仕事をして、後にフリーになりライターや講演家として活躍している。
まずW3事件の既存の情報から。
ここに全部書いていたら膨大な量になってしまいますので。
(↑ 橋本説も書いてあります)
ここに書いてある他にもネット上には色々な記事がありますが、具体的な日時などがない場合が多く前後関係が不明だったりします。
一応私なりにエクセルにまとめてみたので載せますけど、私の個人的な資料だけに鵜呑みにしないように、間違いだらけだと思ってご覧ください。
(見づらくてすみません)

(こういう表はどうやって載せるのがベストなのでしょうか?)
こうしてみると分かってくることがあります。
・『ナンバー7』が虫プロ内で1964年12月中旬に中止になったのに、手塚は大晦日にマガジン向けの『ナンバー7』の予告イラストを描いている。『W3』の企画がまだ固まっていなかったためか?
・『ナンバー7』は1964年12月に虫プロ内で中止が決まっていたのに、講談社側で中止が決まったのは1月5日であること。内々で決まった中止を講談社には伝えず、年が明けてから情報漏洩の話を持ち出して講談社に中止させたように見える。
・手塚が講談社に『ソラン』掲載をやめるように要求してから、マガジンの『W3』終了 → サンデーの『W3』連載開始が非常に早いこと、サンデー版は設定も変えているのに。しかもこの移籍は手塚側が一方的に行っている。
こうしてみると、リスのキャラクターの盗作問題(情報漏えい)は事件の直接の理由ではなさそうなことが分かります。
それよりも講談社がマンガ版の『ソラン』をマガジンに掲載しようとしたことのほうが大きいようですね。
橋本版の事件の背景はこうです。
① 手塚の虫プロがアニメ『鉄腕アトム』を作ったとき、手塚の要求の出し方が酷くて現場が参ってしまい、次のアニメ『ジャングル大帝』では手塚を排除した制作体制を作った
② アニメに関わりたい手塚は、東映からアニメのスタッフが入ってきたので、余っていたスタッフも一緒にまとめて手塚を中心にアニメを作ることになった、それが『ナンバー7』(雑誌日の丸に連載中)
③ 『ナンバー7』はスタジオ・ゼロが企画中のアニメ『レインボー戦隊ロビン』に設定が似ていることが判明し、一旦中止にして、代わりに『W3』という企画を起こす
④ 『ナンバー7』に出す予定だったリスのキャラクターが、TBSで企画中のアニメ『宇宙少年ソラン』にそっくりそのまま使われていたので手塚は驚き、情報漏洩ではないかと怒って講談社に抗議
⑤ 情報漏洩はマガジン側に否定されて、手塚も一回は納得したものの、後になって『ソラン』のマンガがマガジンで連載されると聞いて、マガジンに載せないように要求する
⑥ 『ソラン』のコミカライズを担当した宮腰は、かつての手塚のアシスタント
⑦ 手塚は講談社が『W3』の連載開始時に『ソラン』は掲載しないと約束したと主張し、講談社はそんな約束はなかったと否定する
⑧ 手塚とは古い付き合いでツーカーの仲の今井義章(虫プロの重役)が言うには、かつて手塚の弟子だった宮腰義勝(TBS側の依頼で『ソラン』をコミカライズ)と井上英沖(後のアニメ『遊星少年パピイ』の原作マンガの作者)はとんでもない奴らだった(手塚のアシスタント一期生)
⑨ 弟子の期間は三年間と決まっていて、今井は二人に出ていくように話したが、何のアテもない二人は残してほしいと言ってきた、それでも今井は辞めさせた
⑩ 数日後、東京の京橋にあったメトロホテル(道路の下にあったらしい)で手塚がカンヅメになっていると二人が怒鳴り込んで来て、今井が対応するも収まらず警察官が来るくらいの騒ぎになった
⑪ 結局二人は追い返されたが、大声で手塚のことも罵倒して、それを手塚は聞いてしまい傷ついた
⑫ 手塚が『W3』を連載しているマガジンに、宮腰が描く『ソラン』が載ることになったときに、同じ雑誌でマンガを描くことはどうしてもできなかった(講談社は『ソラン』の掲載中止を断った)から自分がサンデーに移った……
これは今までにない説です。
橋本が今井から聞いた話ですけど、現場をよく知る橋本が納得しているのは大きいですね。
手塚は宮腰と同じ雑誌で仕事をしたくなかったのが本音で、色々理由をつけて無理矢理辞めた……、ありそうなことです。
メトロホテルでの騒動のとき、二人はどれだけ酷いことを怒鳴り散らしたのでしょうか。
手塚は素晴らしい作品を多数描いていますし、あの温厚そうな表情からして人格者のようなイメージがありますけど、本当のところは宝塚のおぼっちゃまだったのだと思います。
マンガで成功して大金持ちになって、周囲からマンガの神様だと持ち上げられて、寝る間も惜しんでマンガを描き続けたけど、何かのタイミングで爆発することもあったらしいです。
この「W3事件」だって、
・やろうとしていた企画が大幅な変更になった
・自分の後輩たち(スタジオ・ゼロのメンバーはほぼトキワ荘メンバー)にSF活劇アニメで先を越されてしまった(実際の放映は後になったが)
・(詳細は不明だが)リスのキャラクターの盗作疑惑
・そもそも寝る間もないのに週刊マンガ誌の連載を引き受けてしまったこと
などからストレスが溜まったところに宮腰の話が来て、キレて逃げてしまったのかもしれません。
そして情報漏洩騒ぎを大きくして、豊田有恒を虫プロから追い出すことになったりしたのでしょう。
未だに関係者がその情報漏洩をした人物のことを具体的に語らないのも、実は存在しなかったのではないかと疑ってしまいます。
だってリスのキャラなんて、誰だって思いつくじゃないですか。
しらんけど。
手塚はその後、講談社とは和解して自分の本の中で謝罪もしています。
豊田とも仲直りをして、一緒に仕事をしています。
宮腰と井上とはどうだったのでしょうね。
関係修復はあったのか、あれっきりだったのか……
タイトル画になっている『鉄腕アトムの歌が聞こえる』はamazonで扱っていて、Kindle Unlimitedに入っていれば無料で読めます。
(「W3事件」の記述はないですが、手塚の想い出話は読めます)
なんかつまらない話を書いてしまったので、最後は爽やかな画像をどうぞ。

明日から秋です。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。