カセットテープの人気が衰えません。
テイラー・スウィフトみたいなビッグアーティストがカセットテープで新作を出したりしてるし、ZUTOMAYOはメーカーとコラボして昔のラジカセをデジタル対応にして発売する予定です。

(ACAねが昔使っていたラジカセと同じモデルらしい)
若い人にカセットテープのことを聞かれることがよくあって、それなら一回記事にしてみるかということで、今回はカセットテープのことを書きます。
(なるべく分かりやすく、基本的なことだけまとめましたが、長くなってしまいました)
そもそも、カセットテープってどうやって録音・再生をしているのか?
デジタルなら回路が繋がっていれば、中で勝手に記録・再生をしてくれそうですよね。
テープって何?
説明しよう(笑)。
カセットテープに使われているテープは、樹脂の薄~いテープの上に磁気を記録しておける磁性体を塗ったものです。
磁気、つまり磁石のNとかSですね、磁性体は与えられた磁気をそのまま残すことができます。
これで音の信号をテープに覚えさせるわけです。
音を記録するには磁気テープを決まったスピードで動かし、ヘッドというパーツの上をこすらせるように通します。
ラジカセの中ではマイクやラインから入ってきた音の信号を磁気に置き換えて、ヘッドから細かく出しているのです。
そこを通過したテープには、ヘッドから出た磁気が記録されます。
テープの表面の磁性体には、NやSの磁気が細かい模様になって残るわけですね。
(目には見えません!)
次に、音を記録したテープをまたヘッドにこすらせます。
今度は録音ではなくて再生モードにしておいて、テープ上の磁気信号をヘッドが読み込みます。
(このときはヘッドから磁気は出しません、読み取るだけです)
読み込んだ信号をラジカセの中で電気信号に換えて、それをスピーカーから出せば音が鳴るわけです。
レコードの溝に音を記録するのに近い、アナクロな方法を使っていたのですよ。
こういう仕組みなので、カセットテープに磁石を近づけてはいけません。
※ちなみにVHSやベータなどのビデオテープも同じ原理です。
ビデオは映像と音声の両方を記録・再生するので、カセットテープよりも容量が大きくなっています。
この磁気テープを使って音を記録する方法は昔から使われていて、ただテープはむき出しでした。

これは昔のテープレコーダー、頭に「カセット」は付きません。
上に置いてある焦げ茶のテープが磁気テープ。
それを巻いて円盤状にしたものの枠がリールです。
テープをリールに巻いた状態で保管しておいて、テープをレコーダーに通すことで録音・再生をするのです。
この画像の中央に、メカがむき出しになった複雑な部分がありますけど、ここにヘッドなどがあってテープを通します。

薄いテープを毎回引っ張り出して複雑な場所に通して、テープの先端をもう一方の空のリールに取り付けて、二つのリールを回転させてテープをリールからリールに移動させて、その間にヘッドを通すということをやるわけですね。
これが中々難しくて面倒。
不器用な人にはちょっと無理かもしれません。
使い終わったら、テープをリールに巻き取ってから取り外します。
(こういう作りのテープレコーダーをオープンリールなんて言います)
この悩みを解消したのがカセットテープなのです。
四角いプラスチックの箱の中に小さいリールが二つ入っていて、テープは二つのリールに繋がっていて、左から右へとテープを動かしながら録音・再生をして、テープが端まで行ったらカセットをひっくり返してまた録音・再生をすると。
これだとテープに直接触れる必要はありません。
この便利な仕組みを発明したのは、オランダのフィリップス社です。
この会社、日本ではシェーバーで有名ですね。
フィリップスはプラスチックのケースにテープとリールを収めた規格を発表し(1962年)、これを「コンパクトカセット」と命名。

使うときにはコンパクトカセットをカセットテープレコーダーにカチャっとはめ込み、あとはボタンを押すだけ。
使い終わったらテープの途中だろうと何だろうと、カセットテープレコーダーの動きを止めてからコンパクトカセットを外してしまうだけ。
超カンタン。
フィリップス社はこれを広めるために特許を無償公開して、世界中のメーカーがこれを採用し普及しました。
日本で最初に製品化し販売したのはマクセルで(1966年)、広告で使われた「カセットテープ」という商品名が日本では一般的になっていきます。
最初のうちはカセットテープは、会議のときの音声を記録して議事録を作るのに使ったり、英会話の教材として売られていたりしました。
つまり音質はどうでもよかったのです、しかもモノラルだったし。
手軽に録音・再生ができることがカセットテープの売りでした。
それが後にステレオ化されて、音質重視の方向へと突き進んでいくわけです。
オープンリールと違って、カセットテープにはA面とB面があります。
テープが最後まで行ったらひっくり返せばすぐ使えるのがカセットテープの売りですね。
一々巻き戻していたら大変ですから。
その仕組ですが。
道路で言えば、上りと下りの二車線があると思ってください。
テープを道路に例えると、あの細いテープの幅を半分ずつ使って音を記録したわけです。
ヘッドはテープの半分の幅に磁気信号を記録したり再生したりという、繊細な仕事をしているのですよ。
そしてステレオは、片側二車線、全四車線になります。
上りの左側の車線に、A面の左チャンネルの信号。
上りの右側の車線に、A面の右チャンネルの信号。
下りの左側の車線に、B面の左チャンネルの信号。
下りの右側の車線に、B面の右チャンネルの信号。
こう書けば分かりますが、カセットテープは凄く細い範囲で磁気を記録しているのです。
フィリップスは音質なんてどうでもいいと開発したので細いテープにしたのに、それを何とかして高音質化した技術者の意地を感じてしまいます。
(テープが太ければ記録できる信号も増えるがコストがかかってしまう)
カセットテープにも色々な種類があります。
これが初心者には分かりづらいので、解説しましょう。
・TYPE1(ノーマル・ポジション)
一番安価で、どのレコーダーでも使えたもの。どんどん性能改善が進み音質も良くなっていったため、「これで十分」というユーザーも多かった。
・TYPE2(ハイ・ポジション(ハイポジ))
最初は磁性体に二酸化クロムを使っていたため「クロームテープ」なんて言う人もいたが、後にコバルト‐酸化鉄系磁性体が使われるようになった。
ハイポジが使えないレコーダーもあった。対応したレコーダーは、カセットテープのガワの決まった位置にある四角い穴を機械的に検知することで、ノーマルポジションのテープと区別していた。
※「ハイポジ」=「高音質」というイメージから、カセットテープ以外の分野でもこの言葉が使われることがあります。
・TYPE3(フェリクロ・ポジション)
これはTYPE1の磁性体の上にTYPE2の磁性体を塗った、二層化したテープを使ったもの(高価だった)。TYPE1にのみ対応したレコーダーでも高音質を楽しむために開発された。その後TYPE1もTYPE2もどんどん性能が向上したことであまり見なくなっていった。
・TYPE4(メタルテープ)
磁性体に酸化されていない鉄合金磁性体を使っていて、最も後に出た最も音質のいいカセットテープ。レコーダーはハイポジと同じ穴と、更に内側に開けた穴の両方を感知して区別していた。安価なレコーダーは対応していないことが多く、高級品のイメージが強い。
高いテープほど音量の大小や高音から低音までの広い範囲の情報を記録することができたので高音質なのです。
グラフで言えば縦軸と横軸が一番広いのがメタルテープですね。
もっとも今現在は、新規で作られているカセットテープはTYPE1しかありません。
その他のポジションのテープは長い間製造されていなかったので、ロストテクノロジーと化してしまったのです。
(再生産するには恐ろしくコストがかかってしまうため)
あとカセットテープを語るのに外せないのが、ノイズリダクション(NR)です。
磁気テープに音を記録して再生したとき、小さい「シャー」という音(ヒスノイズ)がどうしても出てしまいます。
特に無音のときにボリュームを上げるとよく聴こえて、デジタルでは有り得ないことですね。
これを少しでも減らすための技術がNRです。
簡単に言えば、磁気テープに記録できる最大限の範囲を使って音を記録して、再生するときには小さく戻すということをやるのがNRです。
ヒスノイズは録音レベルを上げても大きくはならなくて、再生するときに全体を小さくすればヒスノイズも小さくなるという、よく考えられた仕組みです。
ただし、これはメーカー各社がそれぞれ独自に開発したため、色々な方式が乱立することになってしまいました。
最初に開発したのは映画でお馴染みのドルビー社。
他にも、dbx、ANRS、adres、スーパーD、まだありました。
そしてこれらには互換性がなかったのです。
(今の日本のキャッシュレス決済みたいなものです)
だからカセットテープレコーダー(その種類については後述します)を買うときには、その機器がどのNRを採用しているのかが大問題になります。
自分の既に持っているカセットテープはどれを使って録音したのか?
友達はどのNRを使っているのか?
この辺はメーカーがユーザーの利便性を軽視した結果でしょうね。
結局勝ち残ったのはドルビーです。
(ドルビーのNRにも「C」とか「S」とかがある)
カセットテープの録音・再生をするための機器の種類を書きます。
・ラジカセ(ラジオカセットレコーダー)
説明不要でしょう。電源さえ繋げばカセットテープの録音・再生ができて、ラジオも聴けるスグレモノです。コンパクトなものから大きくて重いもの、カセットテープを二つ同時に入れられるものなどバリエーションも豊富です。
「デッキ」というのは船の甲板のこと。放送局では機材を規定の大きなフレームに複数設置して、前面に操作系、背面にケーブルを接続する端子を付ける共通のデザインが採用されています。
コンビニのドリンクの冷蔵庫みたいなもので、それぞれの機材の操作のためのスイッチは前面に集めて(お客がドリンクを選んで取る)、端子は背面に集めることで(店員がドリンクを補充する)使いやすくしているのです。この、複数の機器の操作系の平面が並んでいる様子を船の甲板に例えたのですね。

カセットデッキは長方形の四角いガワで、前面に操作系、背面に端子を集めたデザインのものを言います。ビデオデッキも同じです。電源やアンプやスピーカーは内蔵されていないのが普通です。一般的にラジカセより高価で音質もいいものが多いです。
・ウォーキングステレオ(ウォークマンなど)
ソニーが開発したウォークマンから始まったもので(1979年から)、再生専用として携帯性を高めたものをこう言います。カセットテープより一回り大きいサイズで、基本的にはヘッドフォンやイヤーレシーバーを接続して音楽を聴きます。でも中には録音可能だったり、スピーカーやラジオを内蔵している製品もありました。
最後に、うちに残っているカセットテープの一つをお見せしましょう。


TDKのメタルテープの90分(両面で)です。
リールの軸の部分が変わったデザインになっていますが、これは「鉛筆を入れて回せる形」なのです。
カセットテープだけあってラジカセはないけどテープを巻き取りたいときは、どちらかの穴に鉛筆を突っ込んで鉛筆だけを持って、カセットテープをグルグル回してあげればいいということですね。
カセットテープはCDやMDの登場により人気は衰退、iPodの登場でとどめを刺されます。
カセットテープには音質の限界や、モーターでテープを巻いていく仕組みなので回転ムラ(ワウフラッター)が発生してしまう欠点がありますから。
でもそれまでは、録音と再生ができて値段も安いメディアとして広く親しまれたのです。
今の60代以上の方なら、レンタル屋でレコードを借りてきてカセットテープに録音していた方は多いと思います。
あと演歌のファンの方々は、今でもカセットテープを愛用しているとのこと。
でもまさか、令和の今にカセットテープがリバイバルするとはね!
古いコンデジ(コンパクトデジタルカメラ)も今人気だそうですし、分からないものです。
長くなりましたが、カセットテープに関してまとめてみました。
まだ書きたいことはありますけど(オートリバースのこととか3ヘッドのこととか)、この辺で。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。