過去の記事にちょっと書いたことですけど。
1980年代、アーケードゲーム(ゲームセンターにあるゲームのこと、家庭用ゲーム機はコンシューマーと言う)の世界で大ヒットしたゲームがあります。
それが『ゼビウス(XEVIOUS、ナムコ)』です。
今回はこのゼビウスの話を書きます、また長くなってしまいましたが。
ゼビウスは縦スクロールのシューティングゲームです。
デビューは1983年のこと。
当時はテーブル型筐体が多くて、連れがいる場合は向かい側に座って見物したりできました。
プレイヤーは架空の戦闘機(ソルバルウ)に乗り、機銃(ザッパー)と爆弾(ブラスター)で敵を攻撃します。
絵的には上空から真下を見下ろした形になっていて、ソルバルウは画面の下半分なら自由に移動できます。
攻撃時は空の敵にはザッパー、陸の敵にはブラスターという使い分けをします。
ブラスター用の照準が画面に表示されていて、画面は上から下へとスクロールしているため、ブラスターは敵が下にズレることを計算して攻撃する必要があるのです。
ザッパーとブラスターは別のボタンで発射し、同時に使うことが可能です。
と、こうやって書くと普通のゲームですよね。
でも違ったのです、ゼビウスは。
実際に、若い頃にゼビウスをプレイしたゲーマーの中には、後の大ヒットゲームのクリエイターが何人もいたのです。
彼らは口を揃えて「ゼビウスに出会っていなければゲームを作る仕事はしていなかった」と言います。
それだけのインパクトがあったということですね。
当時のゼビウスのテーブル型筐体には、ソルバルウの操作法くらいしか書いてありませんでした。
そして煽りコピーが一行だけ。
「プレイするたびに謎が深まる!! 〜ゼビウスの全容が明らかになるのはいつか〜」
これはつまり、このゲームには隠されたストーリーがあるんだよってことです。
それまでのゲームにはそこまでの深さはなかったです。
ゲームセンターっていうのは私が子供の頃(1960年代半ば)には既にあったけれど、当時はテレビ画面を使ったゲームというのはなかったです。
その後登場したのも単純なカーレースとかですね。
今の「テレビゲーム」という言葉のイメージに該当するとしたら、ブロック崩し(1970年代のATARIの製品が元祖、発音的には「ぶろっくずし」と言う)やサーカスゲーム(これも1970年代、「風船割りゲーム」とも呼ばれた)などで、オリジナルが市場に出ると各社がこぞってコピー品を出していました(版権無視)。
当時のハードの性能的には、あの程度のゲームでもギリギリのやっとだったのです。
その後大ヒットしたインベーダーゲーム(1978年、正式には「スペースインベーダー」、TAITOが10万台、許諾先メーカーが10万台、違法コピーが30万台と言われている、私も百円玉積んでやってました)にしても、ギャラクシアン(1979年、ナムコ)とかギャラガ(1981年、ナムコ)にしても、とにかく敵を撃って撃って撃ちまくるだけだったし、それで楽しかったのですから。
ゼビウスの画面がこちら。
森があり、野原や小川があり、道があって、そこに灰色の敵が多数います。
道があるのだからそこには文明があるはずで、人間が暮らしていた土地を灰色の侵略者が奪い取ったと考えることもできます。
そんな土地を敵から奪い返す戦いなんだと、私は解釈していました。
まず、それだけの情報量がこの画面にあったということです。
ただのシューティングゲームなのにね。
従来のゲームと違って、実在する土地のような複雑さとランダムさがあることが新鮮でした。
そこに「何か隠された物語があるのではないか?」、そう考える人がいても不思議ではありません。
しっかし、こんな土地が実際にあるのならハイキングに行きたくなりますねぇ(当時から私はよくこう言っていた)。
それから、敵がみんなグレイ一色でしょ。
ギャラクシアンとかの派手な色使い(あれはあれで好き)と比べると、こちらのほうが不気味さを感じます。
そして敵機の中心には赤く光る何かがあり、多くの敵は特攻するのではなく、攻撃が済んだら逃げていくのも独特でした。
こうして敵機にも人が乗っていることさえ感じさせたのです。
でもゼビウスに関しては、他に何の情報もないのです。
ただコピーで「謎が深まる」と言っているだけでね。
当時はネットがなくて、ナムコという企業の情報がどこにあるのかも分からず。
(一部のゲーセンにはナムコの小冊子が置いてあったりはした)
何回も戦っている(プレイしている)うちに、なんとなくは分かってくるけど確信は持てなかったです。
大学の学友は私の言うことを「何を夢みたいなこと言ってるんだよ」とバカにしてました。
「ただ敵を撃つだけのゲームだろ? それ以上の設定なんてあるわけない」って感じでね。
これはゲームにハマった人間じゃないと理解できないことなんだな、私はそう思ってました。
そこに衝撃的展開が待っていました。
当時ソフトレンタル店でバイトしていた私に、同僚が一冊の同人誌を貸してくれたのです。
それがこちら。
ゼビウスファンにはお馴染みの『10000000点への解法』という同人誌です。
正確には、貸してくれた同人誌のコピーですけど。
これがナムコという企業からの公式で綺麗な本ではなく、マニアの同人誌として私の前に現れたのです。
この同人誌には、私が知りたかったゼビウスの全てが載っていました。
分かっていただけるでしょうか、企業が隠したままの情報を同人誌で知った私の興奮を。
ただのシューティングゲームだと思っていたら実は隠された設定があって、急に世界が広がる感じがしましたよ。
このゲームはSFの物語の一部だったんだ! という驚きね。
(後に開発者によりゼビウスの世界は小説にもなっている)
この同人誌を作った人たちは、元々はただのゲームファンだったらしいです。
それがゼビウスの魅力に取り憑かれて、毎日プレイして分析して、ついにはナムコとのコネを掴み取り、ゼビウスの情報を発信することになったのです。
(最初は一人がプレイして、もう一人が向かい側でプリンタ用紙にマップを手書きしたりしていたそうです、なんつー努力!)
1980年代にはこういうエピソードがよくあって、アニメが好きでアニメ業界と繋がり業界入りしたファンとか、特撮でも同様で、そういう話が沢山ありました。
私の友達にも業界人と仲良くなって情報を提供してくれるのがいましたよ。
(実は私も亜細亜堂(アニメ制作会社)に入りかけたことがあります)
当時のゲームフリークは高田馬場に通い、そこでゼビウスに出会い、こっそりプレイしに来ていた開発者の技を見て盗み、口コミで情報交換していました。
上手い人がプレイしていれば人だかりができて、店内にいる他のお客さんの会話に耳をそばだて、得られた情報を今度は地元で披露する。
ネットがなくて携帯もまだで、こういうコアな情報は口コミでしか知り得なかった時代です。
この同人誌がいかに衝撃的だったのか、少しは伝わりますでしょうか。
ちなみにゼビウスの各エリアは、一枚の大きなマップから縦長の長方形に切り取ったものになっています。
下端と上端が森になっていて、それで次のエリアへと繋がるのです。
マップを等分割したのではなく、ランダムに選んだ位置を使っていて、他のエリアと重複する部分もあります。
ゼビウスは「隠れキャラ」の元祖的ゲームです。
テレビゲームに隠れキャラとか、知られざる設定やストーリーなんて、当時は有り得ない話です。
それを最初にやっちまったのがゼビウスなのです。
私もプレイ中に、爆撃用の照準器が何も無い場所で反応するので、その存在には気付いていました。
この同人誌を見ると、その奥深い設定が見えてきて当時は興奮したものです。
またそれは、ゲームのハードにそれだけの性能が備わってきたことも表しています。
今考えれば、ナムコにこういう「わざと隠した設定によるゲーマーへの煽り」という意図があったのかどうかは不明です。
ファンの同人誌という形での暴露が元々計算されたものなのか。
裏設定を作り込んだはいいけど、それを公開するためのチャンネルがなかっただけなのか。
そしてこの後には、ゲーム業界全体に隠れキャラとその種明かし(攻略本)というビジネルモデルが定着することとなるのです。
そしてもう一つ。
当時はゲーマーの間でゼビウスに関する都市伝説が飛び交っていました。
例えばゼビウスは元々はベトナム戦争を舞台にしたゲームだったため(これは本当)、特定の条件でF-4ファントムが登場するとか。
モノリスみたいな黒石板が出てきて撃っても破壊できないけど、256発当てたら破壊できるとか(嘘だし、ゲーム的にそれは不可能)。
情報が少ない時代のあるあるです。
今回の記事を読んで、ゼビウスをプレイしてみたくなった方へ。
下のリンク先で無料プレイが可能です。
他にも懐かしいタイトルが並んでいて、嬉しくなってしまいます。
ただし、キーボードでのプレイはちょっと難しいです。
(操作系が左右逆になっている)
ゲームパッドをお持ちなら使用したほうがいいと思います。
私がこの同人誌で得た情報から、隠れキャラを出しつつのパーフェクトなプレイができるようになってからは、学友たちもよく観戦してくれました。
何もない場所を攻撃して隠れキャラを出現させたりすると、驚いてましたね。
ああ、懐かしい。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。