スプーキーじいさんって何考えてるの!?

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映画と私 14

アニメ映画『君の名は。』で有名な新海誠監督(1973~)の初期の作品、『彼女と彼女の猫1999年)』と、その後に作られた前日譚に当たる『彼女と彼女の猫 -Everything Flows-2016年、監督:坂本一也)』を見ました。
今回はその感想を書きます。

 

 

まずこの作品の背景を。
新海監督は大学時代にバイトしていた日本ファルコムに卒業後に就職(1996年)、父親の会社を継ぐために修行の道へ進むこともできたのですが。
新海監督は日本ファルコムでは希望したゲーム開発はさせてもらえず、その周辺であるパッケージ制作の仕事をします。

 

新海監督は仕事の中でオープニングムービーを作るようになり、PCで絵を描くことを覚えます。
やがて自宅でアニメを制作しはじめ、『遠い世界1998年、モノクロで一分半の短編)』と『彼女と彼女の猫』を完成させます。
そして2001年に日本ファルコムを退社して、映像作家一本で生きていくことになりました。

 

新海監督はゲームのオープニングムービーやNHKみんなのうた」のアニメなどを作りながら、『ほしのこえ2002年)』を制作。
一本の短編映画をほぼ一人だけで作り上げたことが話題となり、『ほしのこえ』はヒットして数々の賞も受けています。

 

彼女と彼女の猫』は五分弱の短編で、これをベースに十数年後に別の監督により四話で合計三十分弱のTVアニメとして作られたのが『彼女と彼女の猫 -Everything Flows-「EF」と略すことがある)』です。
一応『EF』は『彼女と彼女の猫』の前日譚ということになっていますが、別のクリエイターが作っているので内容は違います。

 

 

 

前置きが長くなりました。
まず『彼女と彼女の猫』は今見ると、そんなに騒ぎ立てるほどの名作というわけではありません。
当時はTVアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』の影響が業界に吹き荒れていた頃なので、この作品にも『エヴァ』の匂いはプンプンします。
大量に撮影したであろう写真をベースにした写実的な画作りは『エヴァ』の影響であり、また一人で映像を作るときの作業量を減らす役割もあったことでしょう。

 

映像はモノクロで、一人暮らしの女性をその飼い猫が語る手法で作られていて、この猫の語りを新海監督自身が演じています。
飼い主の女性は悲しい恋をしているようで、その恋愛のことは詳しくは描写されていません。
その代わりに、オスの飼い猫が近所のメス猫と付き合う様子を描き、観客に分からせるようにしています。
集合住宅に住む飼い猫が外へ遊びに行ける理屈は不明です、一階なのかな?
つまり飼い猫を通して飼い主の彼氏の視点で見せているわけですね。
真新しい手法ではありませんし、見る側に抵抗感はありません。

 

この作品の凄いところ。
まず新海監督がほとんどを一人で作っていること。
今と比べたらかなり非力な当時のPCでここまでの物を作るのは凄いことです。
そしてもし自分でアニメを作れるとして、普通に考えたらメカや美少女に走るでしょ。
新海監督はこういう人の心情を細やかに描写する映像を、きちんと鑑賞に耐えるクオリティで作れているのですよ。
主人公の女性をエロく描くこともしていません。
まだ全然若いクリエイターがですよ?
アニメの専門学校で学んだわけでもない人が一人でって、一体……
おそらく新海監督は普段から色々な作品を見て、そこから吸収してきたのでしょう。
そういう背景を知ると、この作品の凄さが見えてきます。
我々が普段生活している中で、目は街の風景を見ていて、同時に頭の中では色々なことを考えていますが、それを若い新海監督はズバッと作品にしてみせたのです。

 

一つだけ言わせてもらえば。
新海監督の語りが聞き取りにくい!
素人だからしょうがないし、声優を起用する予算もなかったのでしょうね。
動きの少ない映像で語りのウェイトが大きい作品なので、ちょっと残念です。

 

次作の『ほしのこえ』は宇宙でロボットが戦う話になっていますけど、実はこの作品のテーマは遠距離恋愛です。
若い二人の切ない気持ちを丁寧に描いたことが、見た人の心を揺さぶったのです。
もし『ほしのこえ』が大勢で作られたとしても、この作品の価値が下がることなんてありません。

 

 

 

で、『EF』ですが。
一言で書けば、「ありきたり」です。
母子家庭と飼い猫、友だちとの共同生活、上手くいかない就活、母親の再婚。
映像や演出や音楽で驚かされることはなく、新海監督の大ファンとか猫好きでなければ二回は見ません。
物語の起伏の付け方も下手で、最後のアレも取って付けたようでご都合主義だし。
EF』のラストが『彼女と彼女の猫』に繋がるように作られている
既存作品に縛られて作った作品なので、監督に同情はしますけどね。
でも子猫と老猫の描き分けくらいはきちんとしてほしいです。

 

もし就活で苦しむ女性の物語なら、東京ガスのCMをオススメします。
「泣けるCM」としてファンの多い東京ガスのCMの中の一本です。

 

↑ これは何回見ても泣ける……

 

 

 

新海監督はこの後も続々と作品を作り続けています。
でも私は、『雲のむこう、約束の場所』と『秒速5センチメートル』を見て離脱しました。
これは私的には無いなー。
だから大ヒットした『君の名は。』も『天気の子』も、まだ見ていないのです。

 

 

 

というわけで、新海監督の初期の作品『彼女と彼女の猫』について書きました。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。