スプーキーじいさんって何考えてるの!?

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映画と私 3

私が今までに観た映画の中でトップクラスに好きな映画の内の二本を作った映画監督がいます。
その名はビクトル・エリセ、スペインの人です。
現在83歳で、これまでに監督した長編映画はたったの4本。
(映画以外の仕事で食ってるみたいです)
それでも世界中に熱狂的なファンがいるのです。

 

そんなエリセの新作が、何ともうすぐ日本で公開されるのです!
ファンにとってはとんでもないビッグニュースです、なんたって31年ぶりの新作ですから!

↑ エリセの新作『瞳をとじて』の公式サイト

一ヶ月後の2月9日に公開されます。
私も万難を排して観に行きます!
(3時間近い大作らしい……)

 

そして私が大好きなエリセの映画というのは、

ミツバチのささやき(El espíritu de la colmena)』

エル・スール(El sur)』

の二本です。
どちらも甲乙つけ難いほどの名作です。

 

 

 

ミツバチのささやき』は、1973年に公開された映画です。

↑ 予告編

日本での初公開は1985年、シネ・ヴィヴァン六本木での単館上映でした。
この頃にミニシアター・ブームというのがありまして、ハリウッドとかの大作ではなく、ヨーロッパやアジアの小品を単館上映するのが流行ったのです。
(当時は「ミニシアターへ行く=マニアでオシャレで偉い」的な空気がありました)
このときの『ミツバチ』の上映が物凄く評判がよくて、淀川長治さんなんかも絶賛していて、それで他のミニシアターでも公開されてました。
私は大森のキネカ大森(西友大森店の中、日本初のシネコン)で観ました。

 

『ミツバチ』は1940年のスペイン北部の寒村を舞台としています。
スペイン内戦が終わった頃の話を、フランコの独裁政治が終わるちょっと前に映画化したわけですね。
(1940年から1975年までのスペインは独裁政治だった)
スペイン人ならピンとくる、独裁政治を暗に批判するための映画です。
独裁当時のスペインの文化人は検閲に引っかからない方法で自作内で政権批判を繰り広げて、市民はそれを楽しんでいたのです。
ところがそんな映画が、スペイン内戦もフランコもほとんど知らない日本において大絶賛されたという。
それはつまり、そういう要素を無視して観ても十分にいい映画だったということですね。

 

主人公は5歳の少女、アナ(演:アナ・トレント)。
四人家族で、お姉さん(イザベル)といつも一緒に行動していて、その姉はちょっと意地悪。
(アナが混乱しないように役者の本名を役名にしています)
その村に映画業者がやってきて、講堂で有料の上映会が開催されます。
アナとイザベルも観に行きました。
その映画のタイトルは、『フランケンシュタイン(1931年)』。
当時としてはかなりショッキングな内容です。
映画にショックを受けたアナは、イザベルが「彼(フランケンシュタインの怪物のこと、映画の中で死ぬ)は死んではいない、精霊として村の外れで生きている」と話した嘘を信じてしまいます。
その小屋に通うアナ、そしてそこに脱走兵がやってきます……

アナ(左)とイザベル

セリフや説明が少なく、映像は美しく、静かに流れていく物語が素晴らしいです。
アナの演技もよくて、5歳の子供とは思えません。
私は見ていて鳥肌が立ちました、しかも可愛らしいのです。
私はそれまでにこんな詩的な映画を見たことがなくて、一発でノックアウトです。

 

もう一つ。
この映画の中で『フランケンシュタイン』が流れることは書きました。
使われているシーンの一つは、有名な湖畔のシーンです。
一人で留守番している少女が花を積んでいると、そこへ怪物が現れます。
少女は丁度いい遊び相手(怪物を知的障害者だと思い込んでいる)が来たと思い、手を引いて湖畔に座らせ、花を手渡します。

映画史に残る名シーンです。
このシーンは多くの作品で引用されていて、『天空の城ラピュタ』でも登場しています。

今の世の中に必要なのは、他者と向き合って花を手渡し仲良くすることではないでしょうか……

 

 

 

エル・スール』は1983年に公開された映画です。

↑ 予告編

日本での公開は『ミツバチ』と同じく1985年、続けて観られたのは本当に幸運なことだと思います。
舞台は1950年前後のスペイン北部のどこか。
この映画もスペインの内戦や独裁政治による混乱を暗に描いています。
ちょっと調べてみないと理解は難しいですけど(あと聖体拝受とかも日本では馴染みがない)、まず一回観てみてほしいです。

 

『エル・スール』は主人公のエストレーリャ(「星」という意味、ステラ、スター)が8歳の頃(演:ソンソレス・アラングーレン)と、15歳の頃(演:イシアル・ボリャン)の二つの時代を描いたものです。
(大人になったエストレーリャが過去を振り返る形式をとっている)
父親のアウグスティン(演:オメロ・アントヌッティ)との関わりがメインで、逆に父親が主役でそれを娘の目で見ている描き方ともいえます。

 

北に住む小さいエストレーリャから見た父は、とても神秘的な存在でした。
父は目に見えていないものでも分かってしまう能力があるようです。
そしてその父には自分の知らない過去があり、南(エル・スール)には父の一族がいるらしいこと、父は祖父と仲違いをして北に逃れてきたことなどが徐々に分かってきます。
更に、父は南にいる元カノのことを今も想っているらしいことも知ってしまいます。
南に興味津々のエストレーリャ。
でもエストレーリャが成長すると共に、父との関係はギクシャクしてきます。

パンフレットから

ネタバレにならない程度であらすじを紹介するのがとても難しくて、中途半端になってしまいました。
この映画は最後にエストレーリャが南に旅立つところで終わります。
実際にはその「南編」も撮られていたのですが、なんらかの理由でオミットされています。
(もしかしたら当時は「南編(『エル・ノルテ』、北)」でもう一本撮る予定だった??)

 

人と人の関わり、家族、一人ひとりの心模様を美しい映像で静かに描いた映画といえます。
『ミツバチ』が5歳の少女の視線で描かれていたのに対して、『エル・スール』はもう少し上の年齢の視線で語られていて、セリフの量も少し増えていて分かりやすいです。
味わいが違いますけど、根底に流れるものは同じなのではないでしょうか。

 

この映画で使われているピアノ曲は、グラナドスの『スペイン舞曲集』の「オリエンタル」と「アンダルーサ」です。
とてもいい曲でいい使われ方をしていて、すぐCDを買いに行きましたよ。
あとパーティでダンスしているシーンで使われているのは、「エン・エル・ムンド」という闘牛に関係した曲で、スペインでは有名だそうです。

 

 

 

長くなってしまったのでこの辺で。
どちらもいい映画なのでよかったら御覧ください。
(たまーにNHK-BSでやることがあります)

 

 

 

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。