スプーキーじいさんって何考えてるの!?

貧乏・暇なし・不健康。一人暮らしのじいさんのブログです。このブログに広告とか金儲けは入っていません。

ハヤシライスとはなんぞや?

カレーのココイチってありますよね。

私、ココイチのカレーはあまり好きではなくて、たまーに食べるときには激辛にして食べています。
(今は10辛までですけど、昔は20辛でも30辛でも言えば作ってくれました)
お店があちこちにあって入りやすく、簡単に激辛料理が食べられるのが私にとってのココイチのメリットです。

 

そんなココイチで密かに気に入っていたのが、ハッシュドビーフ

ところがこのメニューは、いつの間にか終売していたのです。

 

残念に思っていたら、なんとハヤシライス(¥820)が新メニューとして登場。

似てるなー、色がちょっと違うけど。
食べてみたら、粘度低めで味薄めでした。
洋食屋さんのドロッとしていて濃い味を期待していたのですが……
終売したハッシュドビーフのほうがもう少し美味しかったです、値段ももう少し安かったし。

 

そんなわけで(?)、今回はハヤシライスの話を書きます。

 

 

 

「ハヤシライス」という料理名の語源については、時々テレビなどで語られます。
その中では「どこそこの林さんが作ったから」という語源が紹介されることが多いです。
でも実際はどうなのでしょう。

 

私は正直、テレビのウンチク番組の情報って、眉唾なものが多いと思っています。
ろくに調べもせず、ウケて数字が取れる説なら採用する、もしかしたらそういうものなのかもしれません。
(最後にちょろっと「諸説あり」なんて逃げを打ったりしてね)

 

例えばテレビ番組では、カレーライスの起源をインド料理とすることが多いですけど、直接の起源はイギリスのアングロインド料理であり(カレー粉を使うこと、とろみを付けることなど、日本のカレーに近い)、そのイギリスをすっ飛ばしてしまう番組が何と多いことか……

 

 

 

まず、私の結論から。
「ハヤシライス」の語源は、不明です
(何じゃそりゃー!?(笑))
だって、ハッキリとこうだっていう証拠が残っていないんですもん、残念。
それでみなさん、得られた情報を元に、
「自分はこうだと思う」
と主張しているに過ぎないということです。
だからもし、語源について「こうだ!」と断言している人がいたら、眉毛に唾をたっぷりと付けておきましょう。
今はこういう状況なので、みなさんも自由に自説を持てますが、断言してはいけませんよ。

 

 

 

では順を追って、分かっていることを書いていきます。

 

ハヤシライスの起源とされる料理は、ハッシュドビーフ(Hashed Beef)だという説が有力です。
元々は18世紀かそれ以前からイギリスで作られていた料理で、今の日本のハヤシライスとはかなり違うものです。
共通するのは、「薄切りの牛肉を使った煮込み料理」だということ。
(今の日本のハヤシライスは、デミグラスソースを使う辺りがフランス料理に近い)
この料理は作り方が段々と変化していって、どこかの段階で日本に持ち込まれ、色々な国の料理と混ざっていったと思われます。

 

ハッシュドビーフに関連する、日本で記録として残っている最古のものは、明治18年(1885年)に出版された『手軽西洋料理』という料理本です。

↓ 国立国会図書館デジタルコレクション

https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/849108

雑煮(Beef Hash)が載っている部分(十二頁)

ただこれはハヤシライスとはまったく別の、牛肉入りハッシュドポテトのような料理です。
(これについては後述)

 

ハヤシライスに近い料理としては、明治21年1888年)に出版された『軽便西洋料理法指南』という料理本に載っている「ハヤシビフ」があります(外国人料理人の口述筆記)。

↓ 国立国会図書館デジタルコレクション

https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/849016

ハヤシビフが載っている部分(二十六頁)

外国人の「Hashed Beef」の発音が、日本人には「ハヤシビフ」に聞こえたのかもしれません。

 

明治42年(1909年)には、小麦粉を炒ってとろみを付けた「ハヤシビーフ」が載った『女道大鑑』というレシピ本が出版されています。

↓ 国立国会図書館デジタルコレクション

https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/757230

ハヤシビーフが載っている部分(七〇頁)

この頃には料理本に「ハヤシ」が使われるほどポピュラーだったようです。

 

そしてこのハヤシビフやハヤシビーフとご飯を合わせた料理を、
Hashed beef with rice
Hashed meat and rice
Hashed and rice
Hashed rice
などと呼んでいたそうです。
(四番目の「ハッシュドライス」はどう考えてもおかしいでしょ!?(笑))
音的に「Hash」が「ハッシ」「ハイシ」「ハヤシ」になっていった可能性があり、この辺りが「ハヤシライス」の語源であると思われます。

 

 

 

もう一つ。
この「Hash」という言葉には、

デミグラスソースで煮込むこと

・(ハッシュドポテトのように)細かく切ること

の二種類の意味があります。
(『手軽西洋料理』の雑煮は後者に近いですね)

 

明治時代の日本では、料理で食材を細かく切ることを、
はやす
細かく切った肉を、
はやし肉
と言っていたのだそうです。
これは「Hash」の後者の意味と同じであり、音的にも近いです。
(分かりませんけど、「はやす」は「Hash」から生まれた言葉かも?)

 

明治から大正にかけて、牛肉とジャガイモを細かく切って作るハッシュドポテト的な料理に「ビーフハッシュ」「ハッシュビーフ」という名称が付けられていました。
この頃は「細かく切る」という意味に対しても「ハッシュ」が使われていたということです。

 

もしかしてですが、「Hash」に二つの意味があるのは紛らわしいから、煮込む「ハッシュ」には「ハヤシ」を使おうよ、ということがあったのかもしれません。
或いは先に

「煮込むのは『ハヤシ』」

があって、

「細かく切るのは『ハッシュ』にしよう」

ということかも。
(上記の明治の料理用語からしたら逆になりそうなものですけどね)

 

 

 

そして大正時代になると「ハヤシライス」という名称が一般的となり、「ハッシュドビーフ」は使われなくなります。
でも今、「ハッシュドビーフ」って普通に聞きますよね?
この名称は、平成元年(1989年)にハウス食品が出した「ハウス ハッシュドビーフ」という商品から広まったのです。

 

↓ ハウス食品の「熟成デミグラスソースのハッシュドビーフ」のページ 

ハウス ハッシュドビーフのCMから

ハウス食品の社内で、

「今度の新商品の名前だけど、『ハヤシライス』はもう古いよ、『ハッシュドビーフ』のほうが新鮮でハイカラだから、これで差別化を図ろう!」

という話があった、のかどうかは定かではありません。
ハウス食品の当時の商品は、今のものとは少し違う味だったそう)
だから今の日本では、同じような料理を「ハヤシライス」と言ったり「ハッシュドビーフアンドライス)」なんて言っているのですよ。
この二つに明確な違いはありません

 

 

 

さてここで、語源についての別の説を紹介しましょう。

 

丸善創業者の早矢仕有的(はやし ゆうてき)氏が作った説

↓ 丸善のウェブサイト

これは早矢仕氏が考案した、肉と野菜の煮込み料理にご飯を添えた料理を起源とするものです。
また、早矢仕氏が神田の三河屋で食べていたハッシュドビーフが起源とする説もあります(明治23年(1890年)頃?)。
どちらにしろ、この料理のレシピは残っておらず、今のハヤシライスと同じ料理だったのかは不明とのこと。

 

早矢仕氏が命名した料理名が何故広まったのかというのも謎ですけど、時期的には無理のない説です。
もしかしたら、早矢仕氏は自宅で三河屋のハッシュドビーフを真似して作ってご飯にかけて、
「どうだ、美味いだろう、これが『早矢仕ライス』だ」
なんて言っていたのかもしれません。

 

 

銀座の煉瓦亭が作った説

↓ 煉瓦亭のウェブサイト

http://ginzarengatei.com/

煉瓦亭は明治28年(1895年)創業の洋食店です。
店主の木田明利(きだ あきとし)氏が言うには、名称としては丸善が元祖だが、デミグラスソースを使ったハヤシライスはうちが元祖、とのこと。
でもどうして、丸善のとは別の料理に「ハヤシライス」という名称を付けたのかは不明です。
明確に肯定も否定もできない、微妙な説です。

 

 

上野精養軒の料理人・林氏が広めた説

↓ 上野精養軒のウェブサイト

宮内省(今の宮内庁)の秋山徳蔵(あきやま とくぞう、天皇の料理番)氏が作った、ハンガリー料理のグヤーシュから考案した料理を上野精養軒の料理人の氏に教えて、それがハヤシライスとして広まったとする説です。
でも秋山徳蔵氏が入省した大正2年(1913年)よりも前からハヤシライスは知られた名称であり、この説は弱いと言えます。

 

 

横浜の林という人のオーダーから出来た説

明治時代のはじめ頃、横浜にいたという男性が洋食店で、

「カレー粉抜きのカレーライス」

をよくオーダーしていて、それが「林さんのカレーライス」、「林ライス」になったとする説。
料理としてはハヤシライスとはまったくの別物ですし(不味そう……)、林さんの具体的な資料が何も残っていないので、信憑性は低いと言えます。

 

個人的な意見としてですが、「Hashed」を言いやすく「ハヤシ」にしたことで、結果として日本人のメジャーな名字の「林」と同じ読みになってしまったことが、こういった説を生んでいるのではないでしょうか。

 

 

獣肉を食べると早死する → 早死ライス説
明治時代にお肉を食べることが普及した日本において、お肉に抵抗のある人はまだまだ大勢いたと考えられます。
これは「獣肉なんて食べたら早死するぞ」ということから、「Hashed beef with rice」を「早死ライス」と呼んだという説です。
でもお肉を使う料理はハヤシライスに限りませんから、ちょっと弱いかなぁ。
もちろんこういう言葉の使い方がなかったと決めつけることも出来ません。

 

ちなみに明治時代になるまで日本でお肉があまり食べられなかったのは、宗教的なことよりも畜産は効率がやたら悪いからです。同じ面積の土地があるなら、米や麦のほうが余程大勢に行き渡るし保存も効きます。

 

 

 

いかがでしょう、とても長くなってしまいましたが、「ハヤシライスの語源」というテーマだけでも色々と出てくるものでしょう。
今後も新しい説は出てくるでしょうし、新しい根拠も登場するかも。
楽しみです。

 

 

 

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。