スプーキーじいさんって何考えてるの!?

貧乏・暇なし・不健康。一人暮らしのじいさんのブログです。このブログに広告とか金儲けは入っていません。

小説・窓外の少年

 相変わらずの朝の通勤列車。私はヌメるつり革に掴まりながら(後で除菌しよ)、むっとする空気の中で文庫本を読んでいた。耳にはイヤレシーバー、流れているのはfurui riho。座席には着ぶくれして眠り込むサラリーマン、スマホを見るOL。立っている乗客同士の間に隙間がちょっとある程度の混みかたで、ほとんどがスマホを見ている。
 こんな状況でも、本の中に入り込んでしまえば大丈夫。今日は、久々の町田康
 (この人の本、やっぱパンクだ)

 

 都心のターミナル駅が近付いてくる。列車は減速し、ポイントを通過するたびにガクンと揺れる。そばに立っている乗客が、みっともなくよろけている。
 (つかまっていればいいのに……)
 ガクン、ガクン。
 ところがここで、列車は止まってしまった。片方のイヤレシーバーを外して車内放送を聞いていると、信号がどうのこうのでしばらく停車するらしい。あーあ、やっと外の空気が吸えると思ったのにな。
 (こんなに蒸し暑いのだから、みんな窓くらい開けてよ!)
 乗客は全員がノーリアクション、一々文句を言わないのが東京っぽい。

 

 イヤレシーバーを耳に戻し、本に戻ろうとしたとき。
 目の前の窓から見える、線路に沿った道路の歩道にいる人が目に入ってきた。寒いのにコートも着ていない制服姿の男子中学生が一人、立ち止まってこちらを見ている。列車が高架上にいるので、向こうは見上げる姿勢になっていた。
 ピタリと目が合って、私はつい左右を見てしまう。どうやら、近くに窓外を見ている乗客はいないようだ。とすると、中学生が見ているのは私?

 

 カバンを背負い、メガネをかけた坊ちゃん刈りの中学生は、突然満面の笑みを浮かべた。
 (どうしたんだろう?)
 そして、突然右手を大きく大きく振り始めた。
 (え?、何なの?)
 中学生は得意になって、笑顔でこちらを見ながら右手を頭の上でブンブン振り、ついでにピョンピョンと跳ねている。
 それにつられてつい、ワタシも顔の前で右手をヒラヒラさせてしまった。

 

 するとその中学生、振っていた手で拳を作り、上に突き上げてジャンプ!
 何かを叫びながら、「決勝戦で勝ったんかい?」 って感じの、気持ちのいいジャンプ。
 そして、列車の進行方向へとダッシュ
 背中のカバンを揺らしながら、すぐに見えなくなった。

 

 (あーあ、行っちゃったな)
 (元気な子だよ)


 すると、こちらも動き出した。終点が近付いてきて、車内放送がボソボソと長台詞をしゃべりだし、乗客が生き返ったように立ち上がったり、網棚から荷物を降ろしたり。ワタシも文庫本をカバンにしまい、背筋を伸ばし、列車を降りる体制に。
 よし、列車を乗り換えて職場へ向かうとしましょうか!