スプーキーじいさんって何考えてるの!?

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マネ、晩年の挑戦

台風、怖いですね。
台風から離れていても、嵐になることもあるし。
私自身は大きな被害はないです、雨で服が濡れたくらいで。
あと多少電車が遅れたりしてましたが、早めに動いていたから影響なし。
うちは団地の上のほうだから、浸水する可能性はないし。
雨で洗濯物は干せませんがね。
みなさん、お気を付けください。

 

 


 

 

さて、今回は絵画のお話。
以前印象派の始まりの話を書きました。

その中に出てきた、エドゥアール・マネ
(Édouard Manet、1832年~1883年)
上の記事に書いたとおり、印象派とは別の技法で描いていた画家です。
アトリエで時間をかけて緻密な絵を描いた辺りが、印象派とは違うのですね。

 

そんなマネの晩年の作品に、こんなのがあります。

フォリー=ベルジェールのバー 1882年

パリの音楽ホールの中にある、バーカウンターを描いた作品です。
(横1.3mですから大きな絵です)

 

 

 

この絵、ぱっと見て何か変じゃないですか?
カウンターの向こう側の壁が、大きな鏡になってますね。
カウンターが左右に真っ直ぐに描かれているので、画家は正面から見ていると思われます。
後ろの壁も、下に描かれた鏡の縁からして、正面から見ていることが分かります。
それなのに、バーメイドの後ろ姿は鏡の右側に映っているのです。
そしてバーメイドの前にいるはずの紳士が、絵にはいないのです。
空中ブランコに乗っている人の足がちょこっと描いてあります)

 

この絵の不思議さは、この絵が発表された当時から言われていました。
よく見れば酒瓶の位置もおかしいし、マネは晩年に絵を正しく描けなくなってしまったのでしょうか?
いえいえ、そうではありません。

 

この絵の不自然さを解明するために、わざわざセットを組んで検証したことがあったそうですけど、そういう問題ではないのです。

 

 

 

まず、このバーカウンターの位置です。
鏡に客席(二階席?)が映っていますけど、実在するフォリー=ベルジェールを調べてみると、バーカウンターは客席から見える位置にはないことが分かりました。
つまり、バーカウンターの前に立っても鏡の中に客席なんて見えるわけがないのです。

 

バーカウンターの上に、オレンジが置いてありますね。
これはこのバーメイドが、お客に気に入られれば買われる存在であることを示しています。
つまりこの女性は、バーメイドの仕事をしていながら娼婦もしていたのです。
そういう仕事をする女性というのは、パリに憧れて地方から出てきたような貧困層の可能性が高いそうです。
地方から都会へ出てきて、酒場で働きながら買われれば体も売る。
職場には大勢の富裕層がいて楽しそうにしているのに、自分は……
おそらく友達だっていないでしょう、そういう貧しくて孤独な生活をこの女性は憂いているのです。

 

そんなこの女性の心情を、一枚の絵の中に詰め込んだのがこの作品なのです。
単一の視点の写実的な絵ではなく、映画のポスターのように複数の要素を組み合わせているのですね。
ただそれが分かりづらいだけなんですよ。

 

 

 

こういう話を聞いて、セザンヌを思い出す人もいるでしょう。
そう、一枚の絵の中に複数の視点を持ち込んだ画家です。

果物籠のある静物 1888年~1890年

デッサンが狂っているようで、これはこれでいいのです。

 

19世紀になってから、絵画の革命が続いていきます。
印象派は、従来のアトリエに籠もって描く絵画とは別の絵画を生み出しました。
屋外へ出て、自然の光や色や空気感を表現しようとして、それはパリっ子には中々理解されませんでした。
ルネサンス期に完成した技法を否定し、自分たちで新しい技法を作り出すなんて凄いことです。
やがて印象派は大きな成功を収めるわけですけど、印象派は写実的な絵からは離れませんでした。

 

マネやセザンヌは、見たままをそのまま描くことから、複数の視点を組み合わせて一枚にする技法を作りました。
写真とは違う、絵画の表現の可能性を探ったのです。
色に関してはゴッホやゴーガンが自由に描き始めて、ゴーガンの後輩たちはナビ派を結成してそれを進めて、マティスやルオーのフォービズムへと続いていきました。
形に関しては、セザンヌに続いたピカソやブラックがキュビズムを始めました。
これらも絵画の革命です。

 

 

 

こうやって見てくると、マネが晩年に「フォリー=ベルジェールのバー」を描いたことって凄いなぁって思います。
(この頃には左足の壊疽(えそ)が進んで痛みに苦しんでいた)
新しい絵画を描かなければいられなかった、天才画家の性でしょうね。

 

ちなみに、フォリー=ベルジェールは今も営業しています。

フォリー=ベルジェール(Googleストリートビューから)

お金と時間があったら、こういう絵画に関連する場所を巡ってみたいです。

 

 

 

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。